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【識者の眼】「専門家横断的なCDRをめざす」沼口 敦

No.5153 (2023年01月28日発行) P.65

沼口 敦 (名古屋大学医学部附属病院救急・内科系集中治療部部長、病院講師)

登録日: 2023-01-10

最終更新日: 2023-01-10

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3年前に米国で2種類の子どもの死亡検証に立ち会う機会を得た。

1つはいわゆるCDR(child death review)であった。そこでは警察が事務局として準備と司会を担当し、検視官が事例を提示する。警察が発見状況を説明し、続いて児童福祉、保育、保健センター、小児科医、と各職種が順に情報を開示した。一通り熱心に意見が交換されると、おもむろに司会の警察官が「それでは、本題です。この死は予防可能か否か(Was this death preventable or not?)」と問い掛けた。

もうひとつは、FIMR(fetal and infant mortality review)と呼ばれる会議であった。地域のコミュニティーで行われる話し合いで、宗教者が亡くなった小さな命への追悼を呼びかけ、職種ごとに集まったテーブルそれぞれで論議が始まる。自分は地域市民の集まるテーブルに着いたところ、住民は「すぐ隣にいる」妊産婦をどう支援できるか、という話題が白熱していた。

他にも、地方検事局によるDV(ドメスティック・バイオレンス)関連の死亡検証、子ども虐待に特化した検証など、複数の専門的な会議体も稼働しているという。州、地域による違いはあるものの、特定の専門領域に限定されないで互いに補完し合う、地域に根ざした文化と感じた。

わが国で現在探求されているCDR(予防のための子どもの死亡検証)もまた、専門家横断的であることをめざしている。これは、的を絞った専門的な既存制度の「はざま」に陥りがちな事例を取りこぼさないことを指し、さらに、複数の専門的観点を確保することも意味する。検証の成果は医療の質の担保のためだけでなく、安全な社会の確保をめざすためのあらゆる分野に及ぶことを考えると、たとえば医療専門職のみでなしうる性質のものではない。

とは言え、誰かがこれを牽引する必要がある。CDRの草創期で広く社会的な準備を待っている現在、医師は、あるいは小児医療者は、そのキーパーソンとして最も準備ができているひとりである。そのために、傷病の治療に特化した医学・医療に加えて、広く健康増進や社会の安全にも及ぶ広い視野を持ち続けることが期待される。

沼口 敦(名古屋大学医学部附属病院救急・内科系集中治療部部長、病院講師)[予防のための子どもの死亡検証

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