No.5155 (2023年02月11日発行) P.65
関なおみ (東京都特別区保健所感染症対策課長、医師)
登録日: 2023-02-02
最終更新日: 2023-02-03
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行の波が来るたびに施設の集団感染が止まらない。都は2022年4月から「高齢者及び障害者入所施設に対する専用相談窓口及び即応支援チームの派遣事業」1)を開始した。当保健所は第8波から、施設で入所者・職員を問わず1名でも陽性者が出たら本チーム派遣を依頼している。チームが施設に訪問すると、後日「訪問結果報告書」が送られてくる。この報告書を見てびっくりしたのは、こちらが当然できていると思っていたこと(できていると申告されていたことも含む)が、いかにできていないか、という実態であった。
報告書は「消毒・手洗い」「洗濯・リネン」「環境管理・清掃・廃棄物」「換気」といった14項目で評価されているが※、半分以上◯(=できている)の施設は皆無であり、すべて×(=課題がある)の施設もあった。×が多いのは、手指消毒が徹底されていない、フェイスシールドの使い回し、対象者ごとに個人防護具(personal protective equipment:PPE)を取り換えていないといった、基本的な感染防御に係る内容である。
それだけでなく、ゴミ箱(蓋がない、蓋があってもペダル式でない、満杯になるまで放置)、更衣(ユニフォームを着たまま出勤・退勤)、トイレ(入居者用と職員用が同じ)といった、すぐ改善できるものにも×が付いている。また、不要な場面でN95マスクをしている(サージカルマスクと重ねて使用等も含む)、手袋を二重にしている、靴底消毒や足袋を使用している、複数の種類の消毒薬を使用、といった無駄遣いを続けている施設があることにも驚いた。
これまで7回も流行を経験しているのに? と愕然とするだけでなく、COVID-19発生以前から保健所が感染性胃腸炎やインフルエンザへの対策として様々な研修会を開催していたのは何だったのか? と、座学・情報提供中心主義2)を猛省することとなった。
もちろん背景には、施設職員の入れ替わりが激しいことや、医療職の配置や指導・相談体制なども影響しているだろう。特に大手介護チェーン系施設は遠くの本部の指示を待つとして指導を拒み、対応が遅れる傾向が強い。施設医や嘱託医が機能しておらず、往診や検査の相談に応じてもらえない、陽性者は全員入院といった指示しか出さない、という悩みも聞く。
これまで「施設医」といっても名義貸しか名誉職のようになっていて、実質的な対応をしてこなかった方もいるのかもしれないが、今後はもっと施設に足を向ける頻度を上げ、職員の力になっていただきたい。事件は現場で起きている。
※2023年1月17日以降、基本的な感染対策に重点を置くとして、自己チェックリストに変更となっている。
【文献】
1)東京都福祉保健局:報道発表(第3155報)高齢者・障害者施設の感染対策を専門的に支援します 専用相談窓口の設置及び即応支援チームの派遣開始について.
https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2022/04/28/30.html
2)厚生労働省:介護事業所等向けの新型コロナウイルス感染症対策等まとめページ.
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/taisakumatome_13635.html
関なおみ(東京都特別区保健所感染症対策課長、医師)[新型コロナウイルス感染症][施設での感染防止対策][施設医]