新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は現在感染症法において「新型インフルエンザ等感染症」として、感染者等への入院勧告や外出自粛要請等の人権制限による対策が可能となっている。一方で、この「人権制限」と表裏一体となって、行政的な入院調整、在宅療養時の訪問診療・訪問看護及び経過観察等の患者支援が、全額公費負担で行われてきた。また、医療機関に対しては診療報酬の嵩上げや特例の加算、病床確保やワクチン接種加速のための補助金等の助成が実施されてきた。
現時点でもCOVID-19はいまだ既定の5類感染症と同程度の性状とは言い難く、再度の感染拡大の可能性も否定できないため、感染症法上の類型を見直したとしても、リスクに見合った対応策を継続することが求められる1)。
一方で、5類感染症に対しては、原則としてこうした療養支援策や医療費の補助、医療機関への助成は行われていない。このため、類型変更に伴い原則通りに現在の対策がすべて廃止されれば、医療への強い負の影響が出かねない。特に懸念されるのは、医療費公費負担及び行政による入院調整の廃止の影響と考えられる。
まず、医療費の公費負担については、受診躊躇による治療の遅延防止の観点から、診療報酬の特例的な嵩上げや加算等が廃止されて他の5類感染症と同程度の患者負担となるまでは、他疾患との公平性も鑑み継続が図られるべきである。
次に入院調整の廃止については、類型変更に伴い医療機関には発生届の提出義務がなくなるので、保健所は感染者情報を確実に把握できず調整機能を果たせない。入院医療が必要な場合は、通常の病診連携により入院病床の確保が基本となる。ただし急性感染症として極めて迅速な対応が求められ、一方で病床確保策が廃止されれば対応病床数の減少が予想されるため、感染再拡大時には、地域内で即時に対応できる病床の選定が困難となる、あるいは、広域的な搬送が必要となる可能性がある。また、高齢者施設等では、入院先の選定を消防機関に依存せざるを得ず、救急搬送をひっ迫させる懸念がある。
このため、類型変更にあたっては、高齢者施設等を含め、地域におけるCOVID-19医療連携体制のさらなる強化を図るとともに、当面の間、夜間休日を含め病床確保困難時には行政による補完的な調整機能を保持する必要がある。また、高齢者療養施設等の中間的施設等のサージ・キャパシティの確保も検討すべきである。
いずれにしても、類型変更後も、各種対策については感染者や医療機関等に負荷をかけないよう丁寧で段階的な移行が望まれる。
【文献】
1)第113回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード:新型コロナウイルス感染症対策に関する見解と感染症法上の位置付けに関する影響の考察.(令和5年1月11日)
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001036024.pdf
前田秀雄(東京都・北区健康部長兼保健所長)[新型コロナウイルス感染症]