株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

【識者の眼】「WBCの日本の活躍を見て」堀 有伸

No.5163 (2023年04月08日発行) P.61

堀 有伸 (ほりメンタルクリニック院長)

登録日: 2023-03-30

最終更新日: 2023-03-30

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

WBCでの日本チームの活躍に触発され、久しぶりにしっかりと野球観戦を行いました。

多くの方が既に話題にされていますが、決勝戦の最後に大谷翔平選手が投手としてエンゼルスの同僚であるマイク・トラウト選手から三振を奪って試合を締めくくり、日本の優勝を決定させたのは、あまりに劇的でした。大会全体を通じて二刀流として見事な成績を残し、その貢献度は絶大でした。他の選手たちの活躍も素晴らしく、日本中の多くの人がそこに巻き込まれ、誇らしい満足した思いを抱いたことでしょう。

子どもの頃は野球をよく見ていたのですが、ここ数年はサッカーを見ることのほうが多くなっていました。野球から関心が離れていったのは、私の場合にはFA制が導入された後でした。どうしても、チームの顔だった選手が他のチームに移ることが頻繁に起きる状況が、しっくりと来なかったのです。普通の日本人として育った私が、欧米流の個人主義に出会って感じた違和感も混ざっていたのだと思います。その頃と比べて、大分個人主義的な考え方にも慣れました。

サッカーと比較して野球は、選手の役割(ポジション)が固定していたり、犠牲バントが戦術に組み込まれていたりするなど、集団主義的だと論じられることもあります。特に高校野球では、選手たちに集団主義的な考え方が強力に伝えられています。今回のWBCに関しても、日本選手のパフォーマンスをセンバツ高校野球に出場した選手が真似て、それが問題視されたと伝えられていました。

実は、WBCのあまりの盛り上がりのすごさに、戦前戦中の「大政翼賛会」や「国家総動員」のような言葉を思い出して、微妙な思いも抱いていました。どさくさに紛れて、「集団主義の日本の精神性は個人主義の外国に優れているから勝利するのである」というような主張が行われることもあり、複雑な心境でした。しかしチームリーダーとして献身的な働きを示したダルビッシュ有投手が、過去に旧来の精神論を批判するコメントを発信していたことなどを知り、私はほっとしました。世界を経験した日本人が増えることで、「集団」と「個人」の関係が硬直しやすい日本が、より良い方向に変わって行くのではないかという希望を感じたのです。

【参考文献】

岩本義弘:ダルビッシュ有が否定する日本の根性論。「根性論のないアメリカで、なぜ優秀な人材が生まれるのか」, REAL SPORTS公式サイト.(2020年1月12日)
https://real-sports.jp/page/articles/345850526409163798?fbclid=IwAR37w-DRyIHA7N6Hco97f9W7j1TRDwEsGIrKGrGSLnvFbD_gnPNehYJsSZI

堀 有伸(ほりメンタルクリニック院長)[集団主義と個人主義]

ご意見・ご感想はこちらより

関連記事・論文

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top