2024年度からスタートする第8次医療計画の作成指針では、これまで以上に「医師偏在対策」を推進する考えが示されている。医師偏在を巡っては、中央に地域の実情がわかる人材が少ないことも要因との指摘がある。こうした地域医療の課題解決につながる人材育成プログラムを立ち上げ、必要な運営資金を調達するため、患者と医療機関のマッチングサービス「かかりつけナビ」を開発した株式会社シーエス・ワークスの山田浩之医師に話を聞いた。
順天堂大の小児科・思春期科に入局し、順天堂医院や都立豊島病院などで研鑽を積んでいた頃、2015年の厚生労働省内の組織改編で、小児慢性特定疾患対策が難病対策課に組み込まれることになり、小児科学会から医局経由で出向のお誘いをいただきました。私の出身地が高齢化率や人口減少率の非常に高い地域で、身近な経験から「データではわからない地域医療の課題が中央には伝わっていない」という思いをずっと持っていましたので、これは良いチャンスとお誘いをお受けしました。
実際に厚労省で働いてみて、省内には地方出身者が少なく、地域医療を肌で実感した人があまりいないということを痛感しました。データと実情のギャップを指摘できるような人材が必要だと考え、母校の秋田大や地域の中核病院で、地域医療のために厚労省で勤務する者を募ってみたのですが、キャリアを中断してまで応募してくれる人はいませんでした。
それならば、中高生のうちから将来中央省庁で働きたいという地方の人材を支援し、その人材が地域医療の実情を踏まえた政策の作成に携わることができるような教育支援プログラムを立ち上げようと考えました。その資金を調達するために設立したのがシーエス・ワークスです。
進学の選択肢が狭い教育過疎地域の中高生を対象に、都心レベルの教育リソースの無償提供と継続的な経済支援を中心に考えています。
既存の教育ビジネスの多くは大学入学がゴールですが、このプログラムは、「厚労省をはじめとする中央省庁に2年程度勤務すること」をゴールとしています。医師になってからの交流人事による勤務や、国家公務員総合職試験を受けてからの勤務など本人の希望に合わせて支援を行うことを考えています。事業の売上の一部(80〜90%)から1人当たり年間200万円程度の支援を想定しています。
ツールにはさまざまな候補がありましたが、自分が積み上げてきた医療のフィールドで、多くの問題点を同時に解決したいという思いがありました。
「かかりつけナビ」は全国のクリニック(医科・歯科)と病院をカバーした日本初の「疾患症状別マッチングサービス」です。患者さんが年代・症状などいくつかの項目を選択すると特許取得のアルゴリズムに基づき、おすすめ順に地域の医療機関が表示されます。
患者さんが医療機関を検索するのは体調が悪くつらいときでしょうから、余計な情報は削ぎ落とし、最適な医療機関の情報をわかりやすく提供するよう努めています。医療機関にとっても、得意とする領域の患者さんを効率的に集患できるというメリットがあります。
口コミの機能もありますが、必要十分な情報に絞ったアンケートで医療機関の評価を取得しますので、ネガティブな口コミがつくことはありません。
「かかりつけナビ」Webサイト上の病院の情報をより豊富にすることができます。営業時間や専門医の有無などを記載し、患者さんにアプローチすることが可能です。「Web問診」「予約システム」のご利用も可能になります。患者さんの症状ごとに表示されたおすすめの検索結果からシームレスに医療機関予約が可能になるので、集患に最適です。これらのシステムは医療機関のシステムとしても様々な形で活用いただけます。
ご登録いただいている医療機関からの要望もフレキシブルに反映しており、予約システム上でワクチン管理にも対応できるようにアップデートしました。ワクチンの1回接種量やバイアル当たりの規格、使用期間を入力すると、発注すべき量や総使用量の管理が同時に可能になります。現場では看護師さんや事務スタッフがワクチンの管理にかなり苦労されているという声をよく聞きますので、クリニック全体の負担を軽減することができます。発注ミスも減ると思いますね。
今後も電子カルテとの連携や権限を制限した複数アカウントでの管理など、要望にお応えした機能を実装していく予定です。
この事業は、売上の一部を人材育成のための資金にするため公益性が高く、いずれは一般社団法人化し、地方行政と一緒に取り組んでいくことを目標にしています。1つの県に1家族でも同意して頑張ってくれる子がいれば、47都道府県で約50人。そのくらいピックアップできれば、地域医療再建の一助になれると思っています。
やる気がある子に何年でも継続的な支援ができるよう資金を確保するため、事業をできる限り拡大していきたいと思っています。(聞き手・伊藤未来)