比較的健康なほうだが、時々数カ所の病院を受診している。今までいくつか薬局に行ったが、添付文書に書かれている一般的な注意事項をごく簡単に説明されるだけで、役に立ったという実感がない。このため地理的に便利な門前薬局で薬を貰っている。便利なのでアプリのお薬手帳を持っているが、内容を確認されたこともない。薬局薬剤師も処方箋の情報だけしか持っておらず、数カ月に一度来る患者に対して、細かなアドバイスができるはずがないので、やむを得ないと達観している。
厚生労働省は医薬分業の本分である、服薬情報の一元的・継続的把握を目標にした、患者のための薬局ビジョンを唱えている。薬学的管理・指導、24時間対応・在宅対応、医療機関等との連携など、かかりつけ薬剤師・薬局の今後の姿を明示している。これを実現するには、薬局と連携する病院薬剤師の充実が必須であるが、その不足は目を覆うばかりである。薬剤師の充足状況を調べると、400床以上の病院では「まったく足りない」が48%、「足りない」が45%と、実に93%が不足の状況である。一方、薬局は「まったく足りない」のは数%で、病院薬剤師の不足感とは大きく異なっている。
2020年9月に医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律で、薬剤師・薬局について制度の見直しが行われた。薬剤師が調剤時に限らず必要に応じて患者の薬剤の使用状況の把握や服薬指導を行う義務や、薬局薬剤師が患者の薬剤の使用に関する情報を医療提供施設の薬剤師等に提供する努力義務が規定された。また、患者自身が自分に適した薬局を選択できるよう、知事によって機能別の薬局認定制度(名称独占)ができた。医療提供施設と連携して対応できる地域連携薬局と、がん等の専門的な薬学管理に連携して対応できる専門医療機関連携薬局の2種類であり、その充実を大いに期待している。
これらが実現されれば、住み慣れた地域で患者が安心して医薬品を使うことができる方向に進み、医療全体における薬剤師の重要性が大きく増し、働きがいのある職場となっていくことが期待できる。
ICTや機械化そして薬剤師以外の援助によって、処方箋の受取・保存、調剤、薬袋の作成、監査、薬剤交付、在庫管理といった対物業務から、処方内容のチェック、処方提案、服薬指導に加えて、調剤後の継続的な服薬指導や服薬状況の把握、処方医へのフィードバックなど、薬剤師でなければできない対人業務へ早急にシフトする必要がある。
診療所の近辺が60%、病院の近辺が20%、つまり80%が、門前薬局から薬局ビジョンに沿った薬局へと変貌を遂げてほしい。そして現在、薬剤師は給与面等で調剤薬局に流れていくため、極端に不足している病院薬剤師の充実が進んでいかなければ、これからの医療に果たす薬剤師の役割が低下し、ひいては薬物治療の質の低下につながるのではないかと危惧している。
杉村和朗(兵庫県病院事業管理者)[薬局薬剤師][病院薬剤師][対人業務]