【概要】参議院で審議されてきた医療・介護総合確保推進法案は、有識者への参考人質疑、公聴会、首相への質疑を経て、18日の同院本会議で与党の賛成多数をもって可決、成立した。
10日には、医療事故調査制度における調査と報告書の内容に的を絞った参考人質疑が行われた。
同制度における第三者機関による調査報告書を巡っては、田村憲久厚労相が同日の質疑で「医師の個人名や責任への追及は記載されない」としているが、一方で衆院での審議では「遺族が訴訟に利用する可能性は排除できない」とも述べている。
●「診療録への記載が訴訟防ぐ」
事故調の制度設計を議論した厚労省検討会の座長を務めた参考人の山本和彦一橋大院法学研究科教授は、制度の要は「対象が予期せぬ死亡・死産に限定されたこと」であり、医療従事者が自発的に院内調査を実施できる体制を小規模施設も含めて整えるため、地域医師会などが支援団体となるような費用負担の仕組みの拡充を提言した。
また、16日に参院で開かれた公聴会では、有賀徹昭和大病院長が、調査報告書を遺族が納得できる形にするには、「診療録への事実・経過をいかに記載するかが第一歩」と述べ、主治医が報告書と診療録を遺族に提示しながら質疑に応じることで信頼関係が構築され、訴訟に至らずに解決できるとした。
公聴会ではこのほか、特定行為に係る看護師の研修について、前原正明前防衛医大教授が意見陳述。「看護師の役割拡大の観点から言えば、ナースプラクティショナーなど新資格の創設に比べて小さすぎる一歩だが、まずはチーム医療を進めなければならない」として、制度の早期導入を要望。関連して有賀氏も、「(法案に盛り込まれた)診療放射線技師や臨床検査技師の業務拡大は今後必要なものの一部。医師は医師にしかできない業務に集中すべきで、勤務医の過重労働はチームの働きぶりの調整で解消できる」と、チーム医療推進の必要性を強調した。
●薬価差は「必ずしも基金の財源ではない」
17日の委員会では、参考人として安倍晋三首相が招致。複数の議員が、地域医療の充実のため診療報酬とは別に都道府県に創設する、新たな財政支援制度(基金)の財源に関して、政府の見解を質した。
これに対し安倍首相は「地域包括ケアシステム構築には基金の拡充が重要となる」とした上で、「消費税収を財源に充てることが法案で規定されており、規模は毎年の予算編成過程で調整する」と答弁した。
質疑ではまた、「基金の財源に薬価改定における引下げ分を利用すべき」との提案もなされたが、安倍首相は「必ずしも薬価差を充てるという理解はしていない」と述べ、薬価差の利用には慎重な姿勢を示した。
基金を巡っては、厚労省が各都道府県に対し実施した交付対象事業に関するヒアリングの結果、推計費用の総額が基金の総枠(904億円)を超えたため、原徳壽医政局長が同日、「金額は明かせないが、これから(交付対象を)絞りこむ段階」と述べている。
●10月から新制度が順次開始
17日の委員会採決では全野党が「個別の施策の審議が不十分」として反対したが、法案は与党の賛成多数で可決。翌18日の同院本会議で可決、成立した。
法案に盛り込まれた施策は、10月施行の病床機能報告制度を皮切りに順次運用が始まる。