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【識者の眼】「GLP-1ダイエットの罠」稲葉可奈子

No.5187 (2023年09月23日発行) P.62

稲葉可奈子 (公立学校共済組合関東中央病院産婦人科医長)

登録日: 2023-09-11

最終更新日: 2023-09-11

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2型糖尿病治療薬であるGLP-1受容体作動薬の適応外使用による「GLP-1ダイエット」が問題視され、日本糖尿病学会も警鐘を鳴らしていますが、医師9090人を対象とした調査では、その件を「知っている」と回答したのはまだ約6割でした。

GLP-1には食欲抑制・体重減少作用があり、米国では体重管理治療薬として承認されています。日本でも2023年3月、セマグルチド(ウゴービ®)がGLP-1受容体作動薬では初めて肥満症注1の適応で承認されました。

では、日本で「やせ薬」として安易に使用されていることの何が問題なのでしょうか。

オンライン処方や対面の「ダイエット外来」など、いずれも「肥満症」の適応とは関係なく、来る人は拒まず処方しており、肥満でない人が使用することでやせすぎてしまうリスクがあります。モデル事務所が、所属するモデルさん(おそらく元々やせている)に飲ませていた、という事例も。

そして適応外使用のため、健康被害が起きても救済されません。実際、消化器症状、低血糖などの健康被害が生じており、オンライン処方の場合は特に、副作用に対応してもらえないというトラブルも起きています。

適応外にもかかわらず、「厚労省承認済みの安心・安全なダイエット薬」と謳っている広告もあり、さらに「運動不要・食事制限不要・楽にダイエット」などの甘い文句が並んでいます。本来、減量の基本は食事療法・運動療法で(それがなかなかできないのでみんな安易なダイエットに流されてしまうのですが)、運動せず薬のみで減量することで筋肉量・骨密度も低下するリスクがあります。

自由診療のため高額な診療費が設定されていることもあります。もちろん本人が納得して払っているならいいではないか、というご意見もあると思いますが、不適切な広告で適応外処方を高額で、というのは目に余るものがあります。

楽に稼げる、が闇バイトであったりするのと同様に、楽にやせられる、もなにか罠があるのでは、と気づいて欲しいとも思いますので、注意喚起は大事です。かといって、やせたいという人間の願望はなくならず、もし処方を禁止しても、むしろ海外に産業が流出してしまうだけでしょう。まずは体重管理目的に治験を行い適応をとることと、もし適応がとれたとしても、もともとやせている人には処方しない、運動も指導するなど、我々医師がモラルを忘れないようにすることで、トラブルは減らせるのではないかと思います。


注1 肥満症。ただし、高血圧、脂質異常症または2型糖尿病のいずれかを有し、食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られず、以下に該当する場合に限る。(1)BMIが27kg/m2以上であり、2つ以上の肥満に関連する健康障害を有する(2)BMIが35kg/m2以上

稲葉可奈子(公立学校共済組合関東中央病院産婦人科医長)[適応外使用][オンライン処方][健康被害]

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