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【識者の眼】「日本人女性の睡眠時間からみる社会構造の問題」小倉和也

No.5189 (2023年10月07日発行) P.62

小倉和也 (NPO地域共生を支える医療・介護・市民全国ネットワーク共同代表、医療法人はちのへファミリークリニック理事長)

登録日: 2023-09-13

最終更新日: 2023-09-13

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2021年のOECDの調査を報じたThe Asahi Shimbunの記事1)によると、日本人の平均睡眠時間は7時間22分と対象33カ国中最短で、特に女性の平均は男性の平均より13分短かったという。男性の平均より女性の平均が短い国は、日本を含め6カ国しかなかった。

日々ストレスや疲労に関連した抑うつ患者を多く診察しているが、この記事にある通り、共働きでも家事を一手に担わされる女性が睡眠不足で心身ともに疲弊する姿を頻繁に目にする。仕事の後、夕食の準備から掃除・洗濯、子どもの世話に追われ、長時間労働や交替勤務で不規則な夫の食事や出勤も手伝い、朝は一番早く起きて家族全員分の弁当を作るなど、薬の処方などより生活環境の改善をと話すのだが、なかなか難しいことが多い。経済的な事情もあり働きに出ている場合でさえ、扶養控除などの関係で収入は低く抑えられ、辞めることもできないが時間は足りなくなり、疲労とストレスは増すばかりだ。

このような状況では職場でも家でも生産性は上がらないのはもちろん、本人も家族も決して幸せな生活とは言えないだろう。別の報道によると、共働きであれ女性が無償で強いられる家事などの労働は対価にして実に111兆円分にも上るという2)。このような搾取が常態化していては、少子化が改善するはずもないのは当然である。

様々な制度や労働慣習のため男性が生産性の低い形で長時間労働を強いられることも問題だ。それにより男性の睡眠時間も削られるとともに、女性はさらに削られる構造が見て取れる。コロナ禍の影響か睡眠時間は若干伸びたようだが3)、基本的な社会構造が変わらない限り継続的な改善にはつながりそうにない。

今回の結果は、日本人が幸せな人生を築く以前に、健康的な生活を送るための基盤も危ういことを示している。経済的・社会的な意味からだけでなく健康という観点からも、生産性の向上や働き方改革、賃金や家事負担を含めたジェンダー平等の推進が必要であると言える。

【文献】

1)The Asahi Shimbun公式サイト:Japanese women sleep the least in OECD survey of 33 countries.(2023年4月4日)
https://www.asahi.com/ajw/articles/14861166

2)The Japan Times公式サイト:Japanese women are missing out on ¥111 trillion in unpaid wages.(2023年9月4日)
https://www.japantimes.co.jp/business/2023/09/04/economy/women-work-wages-households/

3)NIKKEI Asia公式サイト:Japanese sleep more for first time since 1970s, survey shows.(2023年2月4日)
https://asia.nikkei.com/Spotlight/Society/Japanese-sleep-more-for-first-time-since-1970s-survey-shows#:~:text=According%20to%20a%202021%20survey,8%20hours%20and%2024%20minutes.

小倉和也(NPO地域共生を支える医療・介護・市民全国ネットワーク共同代表、医療法人はちのへファミリークリニック理事長)[健康の確保][ジェンダー平等の推進]

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