男女の賃金格差の背景に子育てや介護などケアの負担の偏在があることなどを明らかにした1)ハーバード大学のクラウディア・ゴールディン教授がノーベル経済学賞を受賞したことは、医療介護にも大きな示唆を与えている。
先進国では男性と同等か上回る数の女性が高等教育を修了し、男性と同等の条件で仕事をはじめても、子育てや介護を理由に非常勤やより負担の少ない働きかたを選ぶことが多い。そのことが賃金格差につながり、結果的に主に女性がケアワークを無償か低賃金で担うことになる。
少子高齢化とケア人材の不足につながるこのような流れは、そもそも労働力や人口を基盤とする資本主義や民主主義の首を絞めるものであるが、利益追求を最優先するそのあり方に内在するものとする考え方がある2)。そのしくみは、飢えた龍が自らの尾を食べてしまうかのように、自らを支えている人口の再生産を犠牲にしても利益の追求を止めることができなくなってしまうのだという。
女性でも男性でも、子育てや介護をしながら働き、女性の家庭内外での労働を正当に評価し継続に組み込むことが3)、経済の活性化と持続可能な社会のあり方につながる。ゴールディン教授が示したように、米国でも制度・文化の改革は何世代にもわたり続けられてきたがいまだに道半ばと言える。
逆に言えば、洋の東西を問わずその改革は続いてきたことであり、日本でも有効な対策が行われれば、持続可能な世界に変わる可能性はあると言える。
このような根深い問題の解決には、一見極端に見える対策を敢えて一定期間行わなければ変化は望めない。クオータ制などがその例だが、最近インドでは女性のバス料金を無料にする試みが注目を集めている。
男性社会であるインドの低所得層の女性は、仕事に行くためにもまず夫から外出の許可と交通費を貰わなければならないという。そこである州では、女性のバス料金を無料にすることで、女性の就労を後押ししている。女性の経済力の向上は社会的自立とより一層のジェンダーバランスの是正につながり、国を豊かにしつつ男性も住みやすい社会へとつながることは歴史が示している。
フェミニズムはヒューマニズムであり、誰もがその恩恵を受ける。日本には税制や文化的規範など日本の課題があるが、流れを大きく変えるためには年収の壁の撤廃や公費によるすべての子どもへの保育の補償、奨学金返済の免除など、大胆な対策がどうしても必要だ。
少子高齢化の最先端にいる日本社会は、変わらなければ滅びる運命の岐路に立たされている。今、変化を起こすことが必要だ。
【文献】
1)Goldin C:Career and Family, Women’s Century Long Journey Toward Equity. Princeton University Press, 2023.
2)Fraser N:Cannibal Capitalism, How Our Democracy Is Devouring Democracy, Care, and the Planet-and What We Can Do about it. Verso, 2022.
3)Scott L:The Cost of Sexism, How the Economy Is Built For Men and Why We Must Reshape It. Faber & Faber, 2022.
4)The Guardian公式サイト:Ticket to freedom:free bus rides for women spark joy for millions in Karnataka.(2023年6月26日)
https://www.theguardian.com/world/2023/jun/26/ticket-to-freedom-free-bus-rides-for-women-spark-joy-for-millions-in-karnataka
小倉和也(NPO地域共生を支える医療・介護・市民全国ネットワーク共同代表、医療法人はちのへファミリークリニック理事長)[持続可能な世界][制度・文化の改革]