株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

【識者の眼】「マイナンバーによる権利の自動化と自己決定」山下慎一

No.5204 (2024年01月20日発行) P.51

山下慎一 (福岡大学法学部教授)

登録日: 2024-01-10

最終更新日: 2024-01-10

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

こんにちは、山下です。2024年も良い年になるといいですね。

さて、No.5186(ではマイナンバーを活用した「権利の自動化」というアイデアを示し、No.5195ではその問題点を2つ挙げました。今回は、2つのうちの「自己決定」の問題点を詳しく示した上で、その解決策を考えてみたいと思います。

なぜ権利の自動化が、本人の自己決定との関係で問題を引き起こすのでしょうか。下記のような例を考えてみましょう。

ヤシマタさんは、生活保護を受けるか受けないかギリギリの生活をしています。ある年の12月、ヤシマタさんは病気にかかり、仕事による収入が非常に少なくなりました。行政がマイナンバーによってヤシマタさんの収入情報を把握し、それが生活保護のラインを下回ったことがわかりました。その結果、自動的に、ヤシマタさんの銀行口座に生活保護費が振り込まれました。ヤシマタさんは、「生活保護の世話になんかなりたくない! 勝手に給付するなんて迷惑だ!」と怒ります。

確かにこのような仕組みは、生活保護を受けとらないという「選択」の自由を奪い、自己決定の権利を侵害していると言えそうです。しかし私としては、次のように考えています。

生活保護に限らず、社会保障は本来的に「法的権利」として保障されています。ところが、世間一般ではマイナスのイメージを持たれている部分もあります。そのような感情によって、社会保障が必要であっても使うことを避ける人や、社会保障を使う人をバッシングする人が多ければ、そもそも社会保障を使うかどうかについて、真の意味での自己決定はできません。

権利の自動化が進めば、どのような感情を持っている人にも社会保障を届けられます。社会保障の権利の自動化によって、人々の生存の基盤は、無理やりにでも確保する。その上で、その基盤の上にどのような生活やライフスタイルを構築するかは、本人の自由と選択、自己決定に委ねる。このような役割分担が必要なのではないでしょうか。

私自身はこのように考えますが、何を個人の自己決定に委ね、何を強制的にでも保障すべきかという点は、人間のあり方そのものに関わる議論で、唯一の正解はありません。皆さんはどのようにお考えでしょうか。

これまで1年間にわたって、「識者の眼」を担当させて頂きました。お付き合い頂きどうもありがとうございました。またどこかでお目にかかれますと幸いです!

山下慎一(福岡大学法学部教授)[社会保障][マイナンバー][プライバシー][権利の自動化][自己決定]

ご意見・ご感想はこちらより

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

関連物件情報

もっと見る

page top