日々の医療現場では,どれほど誠実に業務にあたっていても,患者との間でトラブルが発生することがあります。そうした際の解決策の1つとして,示談書や合意書の作成は有効な手段となります。実際に,顧問先医療機関からのご相談においても,これらの文書作成依頼は多く寄せられています。これらの文書は,将来的な紛争を未然に防ぎ,円滑な関係を維持するために,非常に重要な役割を果たします。今回は,示談書・合意書を作成する際のポイントについて,具体的な条項例を挙げつつ解説したいと思います。
示談書や合意書は,当事者間で発生したトラブルについて,裁判外で話し合いにより解決に至った内容を明確にするための書面です(ちなみに,示談書でも合意書でも,名称の違いだけで,法的な性質に違いはありません。私は「示談書」だと「仰々しいな」と感じる場面では「合意書」としています。本稿では便宜上,単に「示談書」で統一します)。口頭での約束は,後々「言った,言わない」の争いになりかねません。一方で,書面に残しておくことで,合意内容が明確になり,将来の紛争を防止する効果があります。これは,医療機関が医療サービスに集中できる環境を整える上で,不可欠なプロセスと言えるでしょう。
裁判でも,判決ではなく和解(裁判上の和解)で終結する割合はかなり多いです。そこでは「和解調書」が作成され,双方の合意内容が明確化されます。「和解調書に記載する条項をどう定めるか」についてだけでも本が1冊書けるレベルなので,実は結構奥深いテーマです。