昨今、COVID-19の流行に伴い、解熱薬や鎮咳薬が手に入りにくくなっていることが各地で見られている。漢方薬にも影響は波及し、麻杏甘石湯や麦門冬湯の出荷調整がかかる事態ともなった。ニーズの高まりと供給不足がある中、市販薬の過量服用も問題となっている。最近問題となっているのはデキストロメトルファン(メジコン®)である。
デキストロメトルファンは、コデイン合成類似体であるレボルファノールのD異性体で、ケタミンやフェンシクリジンにも似た構造を有している。CYP2D6に代謝され、活性型のデキストロルファンがシグマオピオイド受容体に結合して鎮咳作用をもたらす。
一般診療の中でも頻繁に処方される薬剤であり、OTC薬として薬局で購入することも可能である。ありふれた薬剤ではあるが、デキストロルファンにはセロトニン作動性活性もあり、他のセロトニンアゴニスト(モノアミンオキシダーゼ阻害剤など)と同時服用した場合に、通常用量でもセロトニン症候群を引き起こすかもしれない点には注意が必要である。
なお、過量服用した場合には、NMDA受容体のアンタゴニストとしても働き、ケタミンやフェンシクリジンと同じく、幻覚や体外離脱感覚をもたらす。
問題はこの部分で、手に入りやすい薬剤で簡単に「飛べる」ということで、若者の間でSNSを通して過量服用が流行しているのである。過量服用は、若者の間で「オーバードーズ」という言葉で扱われ、比較的ライトな響きとともにカジュアルに行えてしまう雰囲気が醸成されている。最近では小学生がオーバードーズで救急搬送されたことがニュースとなっており、由々しき事態と言える。
デキストロメトルファンの過量服用では、頻脈、発汗、散瞳を起こすことが多く、通常は経過観察で軽快が望めるが、歩行障害を呈したり、昏睡状態に陥ったりすることもあり、決して侮ることはできない。また、セロトニン症候群に至った場合には、集中治療室での治療も要する事態となる。危険行為であるということを改めて強調する必要があるだろう。
デキストロメトルファンの他、コデインやブロムワレリル尿素なども、過量服用されやすい市販薬である。販売規制を強化する方向で制度改正をめざす動きもあるが、これらを過量服薬する背景には、ストレスの吐け口がないことや、精神的に追い込まれている実態が存在していることも多い。社会的孤立を避けるためにも、診療に当たる際には行政との連携が求められる。学校や精神保健福祉センターとの情報共有をしつつ、社会全体で対応していく必要があるだろう。
薬師寺泰匡(薬師寺慈恵病院院長)[デキストロメトルファン][過量服用]