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【識者の眼】「高額な医療技術・医薬品の『保険外し』論には多面的な議論を」坂巻弘之

No.5218 (2024年04月27日発行) P.56

坂巻弘之 (一般社団法人医薬政策企画P-Cubed代表理事、神奈川県立保健福祉大学シニアフェロー)

登録日: 2024-04-09

最終更新日: 2024-04-09

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米国FDAは2024年3月18日、ライソゾーム病の一種である異染性白質ジストロフィー(metachromatic leukodystrophy:MLD)に対する新しい遺伝子治療薬「レンメルディ」を承認した。1回の治療で効果が生涯持続するこの医薬品について、製造するオーチャード・セラピューティクスは、卸売価格を425万ドル(約6億3750万円:1ドル=150円で計算)にすると発表した。これは2023年12月8日に承認された鎌状赤血球症(sickle cell disease:SCD)の遺伝子治療のうちの1つで、ブルーバート・バイオが製造する「リフジェニア」の310万ドル(4億6500万円)を超えるもので、世界で最も高価な医薬品になると予想されている。

米国の医療技術評価組織ICER(Institute for Clinical and Economic Review)は2023年10月30日、レンメルディに関する報告書を発表し、「独立評価委員会の投票の結果、同製品は臨床上の便益が認められる」と結論づけた。価格については230万〜390万ドル(3億4500万円〜5億8500万円)の範囲であれば、患者にとって期待されるベネフィットに見合うコストになると推定している。

私見ではあるが、画期的な医療技術で臨床上の便益が確かなものであれば、その価格がきわめて高額であっても、費用対効果によって価格の妥当性をある程度、裏づけられることを示しているとも言える(それでもレンメルディの米国での価格は高額過ぎるとも言える。また、米国の判断基準は日本と異なることにも留意する必要がある)。

一方、わが国では、再生医療等製品に代表される高額な医療技術について、民間保険やいわゆる混合診療(保険外併用療養費制度)の活用を主張する意見や取り組みが見受けられる。しかしながら、なぜ民間保険や混合診療での対応なのかの理由は明確ではない。高額な医療技術が社会保障制度の持続可能性を損なうとの意見もあるが、そもそも公的制度で賄うことができないほどの高額医療技術をカバーする民間保険商品が成り立ちうるのだろうか。がんや稀少疾患などで効果(臨床上の便益)があるものを、高額であるから、あるいは費用対効果が悪いから公的保険から外すというのは、共助でリスクに備える公的保険の役割そのものの否定とも言える。

自由診療や混合診療においては、情報の非対称性により、設定価格の妥当性を患者(消費者)が正しく判断できず、かえって不利益につながりかねないこともある。であるなら、公的保険のもとで管理し、適正使用をさせるべきであろう。

再生医療等製品の一部には、期待したほどの効果がないものや効果のエビデンスレベルの低いものも出てきている。民間保険や混合診療を進めようとする議論の裏には、低い効果のために企業が期待したほどの価格にならなかったものについて、価格を吊り上げるための方便と思われるものもある。高額医療技術の価格設定、保険償還のあり方については、今後も多面的な議論が求められる。ただし、効果が明確であれば、公的保険の範囲で使用することを基本とすべきである。

坂巻弘之(一般社団法人医薬政策企画P-Cubed代表理事、神奈川県立保健福祉大学シニアフェロー)[遺伝子治療薬[民間保険][混合診療][公的保険]

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