先日報じられた国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、全世帯に占める単身世帯の割合は、2020年の38%から増加を続け、2050年には44%となり、一世帯当たりの人数は1.92人まで減少するという。特に男性では未婚の独居高齢者が6割近くに達するという。これを言い換えれば、あと30年弱で全国民の同居人は1人に満たなくなり、約半数の国民が孤立し、高齢男性の6割は独居という寂しい未来が到来することを意味する。社会的孤独・孤立が健康に与える甚大な影響については既に多くのエビデンスがある。孤独感が強い人は、十分な睡眠がとれず、5年後のうつ症状出現の確率が高い。視床下部—下垂体—副腎軸などの活性化を介して様々な健康状態の悪化につながる。孤立している人の冠動脈疾患と脳卒中の発症リスクは1.3倍になり、死亡率も高まる。メタ解析研究でも、孤独・孤立の健康への悪影響は確認されている。
このように深刻化し、喫緊の課題である孤独・孤立問題に対し、国は2022年に孤独・孤立対策大臣を設置するとともに、孤独・孤立対策推進会議を開催して孤独・孤立対策の基本方針を定めた。そこでは、①支援を求める声を上げやすい社会とする、②状況に合わせた切れ目ない相談支援につなげる、③見守り・交流の場や居場所づくりを確保し、人と人との「つながり」を実感できる地域づくりを行う、④孤独・孤立対策に取り組むNPO等の活動をきめ細かく支援し、官・民・NPO等の連携を強化する─の4つの方針が挙げられている。しかし、医療の立場から真っ先に考えられる孤立の弊害は、「病気になったとき誰も助けてくれない」という家族ケアの消失と、「誰も病院に連れていってくれない」という医療アクセスの不可能から生じる健康危機、ひいては孤独死である。
となると、孤立に対応する医療保健福祉サービスの方法論的転回が必要となることが容易に想定されるが、現実はどうだろうか。地域医療構想は2025年問題を視野に地域過疎化に沿う機能分化と地域病床の整理を謳っているが、推計のもとは高齢者の人口推移であり、孤立問題を計算に入れていない。地域包括ケアシステムの整備は自治体に任されており、その導入に大きな地域格差が生じている。
身体医療においては、今年度診療報酬改定により緊急往診料が引き下げられ、往診サービスの提供中止が相次いでいるという。その理由として、かかりつけ医との連携のない緊急往診サービスのビジネス化が問題とされた。精神医療においては、引きこもりや未受診者、治療中断者へのアウトリーチ事業や、精神医療にも対応した地域包括ケアシステムの整備が推奨されているが、加算取得の要件には厳しい制限があり、経営に利するにはほど遠い。点数狙いの往診に適正化が必要なことはもちろんだが、急速に進む深刻な孤立問題に、医療が、保健が、福祉が、どのようなシステムで対応すべきか、よりふみ込んだ議論が必要ではないだろうか。
太刀川弘和(筑波大学医学医療系災害・地域精神医学教授)[単身世帯][訪問診療][地域包括ケアシステム]