日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院で、上腸間膜動脈症候群の16歳男性が亡くなり、死亡までの過程について院内事故調査委員会が調査報告書をまとめ、その内容をふまえて病院が会見を行ったことがニュースになっていた。
大変残念で、心が痛む事案である。一方、報道の中で「研修医が誤診」という見出しも散見され、研修医が原因で事故が起こったかのような印象を与えており、これも個人的には懸念を抱いている。報告書を読めば、確かに当初の判断に誤りがあったのだが、それだけが原因ではないことがわかる。
医療事故の原因は、明確な因果関係が指摘できることもあれば、スイスチーズモデルにたとえられるような、種々のインシデントやアクシデントが、セーフティネットをすり抜けるように積み重なって発生するものもある。誰かのせいにして済ますのがわかりやすく、糾弾しやすいので、特に報道の上では好まれるのかもしれない。しかし、後者のようなものは、医療安全管理体制の不備が背景にあるため、当事者だけではなく、医療機関として責任を負うものとなる(最終的には管理者の責任)。様々な改善点を提示してくれている報告書は示唆に富んでおり、すべての医療機関、そして医療従事者にとって熟読の価値があり、決して対岸の火事とせず、他山の石としなければなるまい。
報道では研修医に焦点が当たっていたので、研修体制について、考えておかねばならないことを共有する。厚生労働省のガイドラインを参照すれば、研修医はコンサルテーションや医療連携が可能な状況下であれば、単独診療も可能とされる。初期救急対応も例外ではない。これは一般診療の場面において1人で診療しても対応可能なレベルまで診療能力を高めることが研修修了の要件だからである。卒後3年目の4月1日には研修医を指導する立場に回ることになるが、受け身で過ごしていては研修医に診療能力は身につかない。指導側に必要なのは、コンサルテーションの閾値を極限まで下げることだろう。
ただし、いま多くの病院でこれが困難になっている。救急科が夜間救急外来を担保している病院以外は、各科専攻医が持ち回りで救急外来のコンサルテーション受け役を担っていることが多いだろう。しかし、働き方改革とともに、相談の閾値が高まることが懸念される。たとえば、記録に残らない業務(電話相談や画像確認など)は、勤務時間に換算されず、隠れ時間外勤務が増加してはいないだろうか。実質夜勤状態で、翌日の勤務の安全担保が行われないとしたら、これは働き方改革には逆行しており、医療安全上も望ましくない状況である。常時コンサルテーションを受けるのであれば、それは宿直扱いにはできないだろう。完全に宿直扱いにするのであれば、研修医は上級医に連絡をとるタイミングを逸してしまうことにつながってしまう。
名古屋第二病院に限ったことではなく、研修医教育にあたるすべての病院が向き合わねばならない現実である。研修医に実診療に取り組んでもらいつつ、常時相談できる環境維持と医療安全担保を、上級医の働き方改革の中で行わなければならない。マスコミにはここまで踏み込んだ報道を行なってもらいたかった。
薬師寺泰匡(薬師寺慈恵病院院長)[研修医][コンサルテーション][働き方改革]