様々な場面で身元保証人を求める慣行は、家族・親族がいない、または疎遠な高齢者にとって面倒な悩みの1つだ。そのような高齢者の不安やニーズに応えるように、身元保証を代行する「高齢者等終身サポート事業」の事業者が増えている。
事業者は、契約者の預託金と契約者の希望に応じて、生前事務と死後事務の委任を受けて遂行する。事業者によって異なるが、生前事務に含まれる行為として、入居・入院・入所保証、術前後の説明の立会い、公営住宅や老人ホーム入居時の保証、就職や海外旅行時の保証、警備会社への登録、不動産・財産管理、付き添い、話し相手、墓参代行、安否確認、救急搬送などが挙げられる。また、死後事務に含まれる行為は、死亡確認、遺骸処理、遺体搬送・保管、死亡届提出、火埋葬許可申請・提出、火葬遂行、収骨手続き、収蔵(納骨堂)・埋蔵(墓地)手続き、遺言執行代理、遺言内容の執行などが挙げられる。事業者はこれらの行為を契約に基づいて遂行してくれる。
ところで、生前事務の中に、入院や医療行為に関する事柄が含まれていることに注目して頂きたい。厚生労働省の研究班が2017年に行った調査では、無作為抽出した1291医療機関を対象にアンケート調査を行ったところ、65.0%が「入院時に身元保証人等を求めている」と回答していた。理由(複数回答可)は「入院費の支払い」が87.8%と最も高く、「債務の保証」も81.0%であり、未収金への懸念の強さが明らかになった。また、「医療行為の同意」も55.8%にのぼっていた。
この調査は、身元保証人と医療機関の関係における2つの問題を明らかにした。1つ目は、身元保証人の不在を理由とした入院の拒否が応召義務違反(医師法第19条第1項)に相当する可能性である(医政医発0427第2号、2018年4月27日)。外国からの受診者を受け入れた医療機関の2割で未収金が発生という2022年の調査結果もあり、医療機関側の未収金への懸念は増している。「高齢者等終身サポート事業」の存在は、保証会社による医療費保証契約と並んで、医療機関にとっても安心材料になるのかもしれない。
2つ目の問題は、身元保証人に医療行為の同意を求める行為である。身体に対する一定の強制を伴う医療行為への同意は、権利や義務が他者に移転しない性質をもつ(一身専属的事項)。そのため、身元保証人だけでなく、法に基づいて選定される成年後見人であっても、その権限に医療行為の同意は含まれていない。
厚労省が2018年3月に改訂した「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」では、日頃から繰り返し本人と話し合っておき、その意思を尊重すること、また本人の意思が不明で身寄りのない人については、医療・ケアチームが医療・ケアの妥当性・適切性を判断して、その本人にとって最善の医療・ケアを実施することを求めている。
2024年6月に「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」(右記QRコード)が示され、事業者には医療に関する意思決定支援までは認められている。患者が契約する「高齢者等終身サポート事業」の担当者を呼び出し、医療行為の同意を求める行為が横行しないように留意すべきだろう。
武藤香織(東京大学医科学研究所公共政策研究分野教授)[身寄りのない人][身元保証人]