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【識者の眼】「どのように亡くなるのがよい選択なのか?」浅香正博

No.5237 (2024年09月07日発行) P.67

浅香正博 (北海道大学名誉教授)

登録日: 2024-08-27

最終更新日: 2024-08-27

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わが国の2023年の死亡者総数は157万5936人であり、前年より6886人増加している。このうち75歳以上の死亡者数は、1975年から増加し、2012年以降は全死亡者数の70%を超えている。私も後期高齢者の仲間入りをしてから、平均寿命より平均余命のほうが気になりだした。まもなく平均余命が10年を切ることを自覚すると、これからどう生きるかということより、どのようにして亡くなるのがよいのかを考えるようになった。

2023年の死亡者数を死因順位別にみると、第1位はがんで38万2492人、第2位は心疾患で23万1056人、第3位は老衰で 18万9912人、第4位は脳血管疾患で10万4518人となっている。実にこの4疾患で死亡者の約60%を占めている。わが国の2023年の死因の男女別ランキングを見ると際だった特徴がみられる。男性はがんで亡くなる人が女性の1.4倍に対し、老衰で亡くなる人は女性の40%に満たないのである。心疾患と脳血管疾患で亡くなる人では男女差はみられない。

人生の終末期を迎える人の生体機能と自覚症状の軌道は3つのパターンがあり、誰でもその1つをたどると言われている。この考えはLynnが2001年にJAMAに発表したもの1)で、多くの論文に引用されている。1つ目はがん患者に典型的にみられるもので、生体機能が維持され、自覚症状もない人ががんの進行によって生体機能が一気に低下し自覚症状も強くなり、短期間の内に死亡する。これは多くのがん患者でみられ、いったん悪化すると急速に進行する。2つ目は心不全や肝不全など慢性的な臓器不全に基づき、症状の増悪と寛解を繰り返し死に至るもので、死の予測が難しい特徴がある。亡くなる日を予測しにくいことから管理が大変になる。3つ目は老衰でみられるゆっくりとした死への経過で、生体機能も自覚症状もそれに伴って緩徐に低下していく。自然死に近い状況で亡くなるので、家族も納得できる場合が多い。

3つのパターンの内、老衰死が自然死に最も近いため、これを目標にしていくのがよさそうに思われるが、どの病気で亡くなるのかを自分で決めることはそもそも不可能である。したがって死を迎える状態になったときにどのように亡くなるのがよい選択なのかを、一人ひとりが考えていかなければいけない時代になってきたと思われる。

【文献】

1)Lynn J:JAMA. 2001;285(7):925-32.

浅香正博(北海道大学名誉教授)[人生の終末期][後期高齢者]

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