本連載の第6回(No.5232)にて、専門資格の有無を問わない『介護助手』を導入することの介護現場への多面的な意義について述べてきた。
令和2年度の介護老人保健施設全国調査の結果から、現役介護職員にとって「全体的な業務負担感」「全体的な業務の量」に資することが明らかになった。加えて、「施設の職員間の人間関係が改善した」との回答が23.3%を占めたことにも注目したい。公益財団法人介護労働安定センターが実施した令和4年度介護労働実態調査によると、離職経験のある介護職員のうち、直前職が介護関係の仕事であった者に直前職をやめた理由を訊ねたところ、「職場の人間関係に問題があったため」が27.5%で最も多く、ついで「法人や施設・事業所の理念や運営のあり方に不満があったため」が22.8%、「ほかによい仕事・職場があったため」が19.0%、「収入が少なかったため」が18.6%という順になっている。つまり、離職理由は必ずしもいわゆる「4K」(=きつい、きたない、危険、給料が安い)ではなく、職場の人間関係がよくないことに起因すると言える。
一般に職場の人間関係を悪化させる主な要因に、「多忙で心に余裕がなくなる」がある。その結果、職員間のコミュニケーションが不足し、様々なミスやロスが散発し、疑心暗鬼、不信・不満が集積するという悪循環に陥ってしまう。こうしたリスキーな職場の典型が介護現場であると言っても過言ではない。とりわけギクシャクしがちな人間関係には、潤滑油となるような人物の存在が重要である。
筆者らは以前、首都圏の一般地域住民を対象に世代別の交流関係と精神的QOLの関連を調査した。その結果、現役世代においては交絡要因を調整しても同世代のみならず、高齢世代とも交流している人の精神的QOLが最も高いことがわかった。概して、人間は、同世代同士だと即座に以心伝心しやすい半面、過度な期待やライバル意識、さらには嫉妬心が芽生えて、息が詰まることもある。介護助手へのインタビューの中で、「休憩時間に介護職員から様々なつぶやきを耳にすることがあるんよ。私たち、頷いてあげることしかできんけどねぇ」と聞いたことがあった。短時間パートとして、いきがいを求めて勤務する介護助手は、世代や価値観が異なる。直接の利害関係もないが故に「ホッとする」存在なのかもしれない。
令和元年度の厚生労働省委託介護施設等における生産性向上に資するパイロット事業において、筆者らは三重県内の介護老人保健施設27施設を対象に施設ごとの介護助手配置割合と介護職員のバーンアウト尺度の平均得点の関連を分析した。その結果、介護助手の配置割合が高い施設ほどバーンアウト尺度の平均得点が有意に良好であることがわかった。介護助手がもたらす潤滑油としての役割を傍証するエビデンスと考えている。
【参考文献】
▶ 村山洋史, 他:ご存知ですか?「介護助手」のちから─元気シニアが介護現場の人材不足を救う. 社会保険出版社, 2023.
▶ 根本裕太, 他:日公衛誌. 2018;65(12):719-29.
▶ Sakurai R, et al:BMC Health Serv Res. 2021;21(1):1285.
藤原佳典(東京都健康長寿医療センター研究所副所長)[高齢者就労][健康]