坂井雄貴 (ほっちのロッヂの診療所院長)
登録日: 2025-01-28
皆さんは「ピアレビュー」という言葉をご存知だろうか? ピアレビューとは、専門家や実践者同士がピア(同僚・仲間)として成果物を評価・審査するもので、医療に関わる私たちにとって実は馴染み深いものだ。たとえば医学研究の分野では、査読という形で論文のピアレビューが行われており、臨床における症例カンファレンスや学会発表もピアレビューの一種と言える。そこで得られた知見を参考に、医療を実践することも多いのではないだろうか。
しかし、地域医療の実践となると、少し異なってくる。地域医療ではそれぞれのコミュニティに暮らす人たちや地域の文化背景が異なり、日々刻々と変化していく。そのため、ある地域で成功したやり方を別の地域に持ち込んでも上手くいかないことを多く経験する。地域の現場で実践するプロジェクトについては、「ピアレビュー」について視点を変えてみる必要があるのだ。
書籍『アートプロジェクトのピアレビュー』では、ピアレビューを「対話と支え合いの評価手法」ととらえている。実際に互いの活動内容について話を聞き、質問やフィードバックをし合うことで、参加者は客観的な指標に基づいた一方的な評価ではなく、双方向的な対話から新たな気づきを得ることができる。また、近い関心を持つ人たちとの出会いは、相互のエンパワメントやモチベーションの維持にもつながる。
そもそも評価の目的は、①アカウンタビリティ(説明責任)の確保、②マネジメント支援(事業の形成・改善)、③知的貢献(科学的エビデンス、新たな知見の産出)の3つで表される。臨床現場や医療機関の運営では、知的貢献やアカウンタビリティの確保として、一定期間後の目的の達成具合を判断するために統括的評価が多く行われる。対してピアレビューでは、マネジメント支援を目的とした形成的評価としての活用が期待できる。ここで重要な点は、ピアレビューはプロジェクトの実施中に行えるということだ。そのため、まだ何かのプロジェクトが構想段階あるいは現在進行形であっても、得られた気づきを改善に利用し、活動プロセスの見直しに役立てることができる。
地域活動に関心を持つ医療者が地域でうまく仲間を見つけられず、あるいは他の医療従事者から理解を得られずに孤軍奮闘し、バーンアウトしてしまう事例も耳にする。私たちが健康に関わる活動を続けていくには、仲間が必要なのだ。対話と支え合いを軸としたピアレビューが日本中、世界中の仲間と出会う契機となり、健やかな活動の広がりにつながればと思う。
私は本連載を通して、様々な角度からコミュニティドクターの存在に光を当て、その実践の様子を浮かび上がらせてきた。多くの方が地域医療に関心を持ち、もう一歩を踏み出すきっかけになることができたらうれしい。医療者のみなさん、次はまちでお会いましょう。
坂井雄貴(ほっちのロッヂの診療所院長)[地域医療][コミュニティドクター][ピアレビュー]