草場鉄周 (日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)
登録日: 2025-01-31
前稿(No.5258)に引き続き、筆者が家庭医として働く北海道の室蘭・登別という地域について取り上げる。両市合わせて人口は12万人程度で、高度急性期医療や救急医療に対応する病院が3箇所あり、ようやく機能分担に向かいつつある状況は前稿で説明した。こうした病院の変遷の中で、家庭医の主戦場である診療所がどのように変化してきたか振り返りたい。
筆者診療所の外来診療圏は、室蘭市の中でも本輪西・港北町という地域であり、25年前は4つの診療所が経営されていた。しかし、その間に1診療所が院長の高齢化に伴い廃業、1診療所は子息への事業継承がなされた。現在は当院を含めて3診療所が存在するが、1診療所は院長の高齢化に伴い、遠くない将来に閉院も想定される。また、地区の人口減少と高齢化は着実に進んでおり、かつて少ない平野部に密集していた人家は徐々に減り、空き地も目立つようになってきた。
そんな中、筆者の診療所はやや過密気味の診療環境で外来患者数は伸び悩む一方で、在宅医療については診療圏を大きく越えて室蘭・登別全域を対象にしたこともあり、在宅偏重気味の運営を強いられてきた。しかし、2年前に診療所を国道沿いのアクセスがよい場所へ新築移転したことをきっかけに状況は一変した。ここ数年で診療圏外の内科系、小児科系の診療所の廃業が相次いだこともあり、やや遠方から患者が受診するケースが増えてきたのである。その逆に在宅医療はむしろ患者数は伸び悩むようになったが、これは高齢化がかなり進む中で高齢2人世帯、高齢独居世帯が増加し、介護力の低下が著しいことで自宅療養が難しくなったことが大きい。現在は新規患者も増加し、外来と在宅のバランスも理想的になりつつある。
以上の歴史を振り返ると、開業医の高齢化に伴う診療所の減少、そして新規開業が皮膚科や耳鼻科等のマイナー系診療科、あるいは内科でも消化器科、呼吸器科などサブスペシャルティ診療科へと偏重しつつある状況が、幅広い健康問題に対応する一般内科・小児科の診療所減少につながってきていることがよくわかる。結果的に、残る診療所は広域の患者に対応することが求められるが、当院のように若手家庭医が複数在籍する診療所にとっては問題ないが、高齢の1人開業の診療所では限界があるのも当然である。
政府が掲げる「かかりつけ医機能を地域で面として発揮する」というコンセプトはよいが、地方都市で激変する診療所の運営環境をふまえて、実現が可能な絵を描くことが真に求められる。2025年はそのためにも重要な1年になることは間違いない。
草場鉄周(日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)[総合診療/家庭医療]