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【識者の眼】「感染症関連医薬品不足対策のために企業の安全在庫確保と薬局の適正発注が求められる」坂巻弘之

坂巻弘之 (一般社団法人医薬政策企画P-Cubed代表理事、神奈川県立保健福祉大学シニアフェロー)

登録日: 2025-02-10

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インフルエンザの急拡大により、抗インフルエンザ薬の供給が逼迫している。新型コロナウイルスの流行下では、感染対策の徹底によりインフルエンザ感染者数は大幅に減少していた。しかし、行動制限緩和やマスク着用率低下に伴い、昨シーズンからインフルエンザの感染が再拡大している。抗インフルエンザ薬の出荷実績は昨シーズン約1500万人分、今シーズンは約2500万人分の供給見込みとしていた。

これほどの備蓄があったにもかかわらず、2024年末からインフルエンザの感染が急拡大し、オセルタミビルを中心に限定出荷となった。これに対して、厚生労働省は、2025年から、供給状況を毎週公表するとともに、薬局・医療機関に対して「抗インフルエンザウイルス薬の適正な使用と発注について」協力依頼を発している。しかし、インフルエンザや感染症のように季節的に需要が変動する疾患の治療薬については、安全在庫確保対策とともに、需要側の過剰発注を防ぐ流通制度の見直しが求められる。

抗インフルエンザ薬の中でも、特に使用割合が高いオセルタミビルの製造(輸入)状況を見ると、先発品(長期収載品)のタミフルはすべて海外からの輸入と推察され、輸入増は困難と考えられる(世界の中での圧倒的な使用割合を日本が占めるとの特徴もある)。後発2社の原薬は両社ともインドである。原薬入荷後、「原薬受入検査・製剤化・品質検査・包装」の各工程後、出荷となるが、原薬入荷から製品出荷までに3カ月前後かかる。したがって、不足時の増産対応は困難であり、在庫対応が必要となる。

世界的な医薬品不足に対し、各国は対応ガイドラインを策定・見直している。カナダ保健省は、安全在庫確保に係るガイドを示し、安全在庫を確保すべき医薬品と保有量、使用期限延長などを規定している。ただし、原薬製品に関わらず、企業在庫は財務上の負担が大きく、倉庫費用などのコストも生じるため、カナダの対策に加え、在庫負担に対する財政的支援も求められる。

需要側への対応としては、古い使用期限の製品から出荷するなど、在庫回転の仕組みとともに、薬局が過剰に在庫を保有しないよう、返品不可などの対応も導入すべきである。昨シーズンも、インフルエンザ収束時期に返品が増大した。返品禁止とすることで発注量を適正化する必要がある。

抗インフルエンザ薬は、新型インフルエンザ対応のため、国・地方自治体が行政備蓄している。現行法制度下では、これらを季節性インフルエンザに流用することは困難だが、来シーズン以降の流行に備え、安全在庫の考え方とともに、転用できるよう議論を行うべきであろう。

坂巻弘之(一般社団法人医薬政策企画P-Cubed代表理事、神奈川県立保健福祉大学シニアフェロー)[抗インフルエンザ薬不足]

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