国連女子差別撤廃委員会の男系男子の皇位を定める皇室典範改正を求めた勧告に対して、「日本の立場」を世界に向けて、どのように説明していくのだろうか。
既に女性の社会進出を背景に、社会はジェンダーニュートラルをめざして急速に動いている。機内アナウンスは「all passengers」と呼びかけ、トイレの男女表記も使いにくいと指摘、病院の外来患者名の頭についていた青色と赤色のマークも消えた。
女性のトラックドライバーやパイロットも着実に増えており、玄関口の呼び出しでドアを開けると、宅急便トラックから降りた素敵な女性が、荷物を手渡してくれることが多くなった。女性医師の診療科選択は多様化し、外科系、救急科などでも女性医師が増え、男女の偏りは変化している。『1970年生まれの女性臨床研修医は、男性に比べて平均で2.0時間短い診療科を選んでいたが、1980年生まれではその差が1.3時間に縮小』といった記事を見つけたが、その差は今後さらに縮まるだろう。以前は少ないながら基礎医学講座の女性教授就任を時代の変化と拍手していたが、今や臨床のメジャー診療科に女性教授が就任することはめずらしくなくなった。
「性差医学」と「日本性差医学医療学会」をご存知の先生は多くないと思う。1957年に米国で女性の健康を守る運動が開始され、NIH(米国国立衛生研究所)やWHI(女性の健康推進イニシアティブ)を中心に性差を研究する潮流が高まった。日本でも1999年に日本心臓病学会で天野恵子先生が、多くの疾患で性差により臨床症状や発生機序に違いがあるという性差医学の概念を紹介したことを契機に、この新しい視点が急速に広がった。私は産婦人科医であるため、診療による性差はないが、疾患の生物学的性差(sex difference)の発掘や研究に引き込まれたものだ。
2024年10月、国立成育医療研究センターに「女性の健康総合センター」が新たに開設された。性差を意識した臨床・研究とエビデンスの構築が目標という。その成果が臨床に反映されることに期待したい。しかしながら、性スペクトラムの視点からは生物学的性差すらも、メス・オスの2分では説明できない報告が多数あり、未知の科学の挑戦を受けなければならないだろう。
藤井美穂(社会医療法人社団カレスサッポロ時計台記念病院院長)[性差医学][性スペクトラム]