私のSNSに実際に寄せられた言葉から、今どきの医師の本音とその背景、今後について考察します。
「忙しすぎて、研究できない」と聞き、「気合いと工夫が足りないのでは?」と思った方は、心の中でそっと手を挙げて下さい。平成を生きてきた身として、そのお気持ちはよくわかります。しかし、時代は大きく変わりました。日本の医学分野が今後も世界で存在感を発揮するには、私たちを取り巻く環境の「進化」、特に生産性の向上が求められているように考えます。
2004年に国立大学は法人化され、運営費交付金の削減が始まりました。その結果、医学系アカデミアは収入確保のために、臨床業務へ多くのリソースを割かざるをえなくなりました1)(リンク参照)。また、臨床系医局を支えていた製薬企業からの奨学寄附金が徐々に減り、ほぼ消滅しました。これに伴い、事務作業などをサポートしてくれる人員が減りました。
一方で、私たちがすべきことは激増しました。治らないと言われていた脳神経内科領域であっても、診断・治療ともにできることが増えました。加えて、医療安全やコンプライアンス遵守のために、多種多様な作業も増えました。また、アカデミアは非営利かつ専門性を持つという立場から、外部から様々な依頼が持ち込まれます。
そこへ、2024年4月から働き方改革が本格導入され、労働時間管理が厳格化(これ自体はあるべき姿ですが)され、その影響として私たちの稼働時間は減り、人件費が増えました。さらに、コロナ対応のための補助金が終了し、物価高騰や診療報酬改定の影響も相まって、大学病院の経営はいっそう厳しさを増しています。「破綻」をさせないために、診療にさらにリソースを投入しなくてはならず、研究を継続できていることのほうが奇跡に近いのではと感じてしまうほどです。
しかし、私たちは歩みを止めるわけにはいきません。一度、止まってしまったら、再び歩き、追いつくために、何倍もの努力と時間が必要です。
では、どうすればよいのでしょうか。その答えは1つではなく、立場により取り組むべきことはおそらく異なります。政策に期待したいことももちろんあります。しかし、はじめに、私たち自身が認識すべきは、「マンパワーにまったく見合わない仕事量がアカデミアには既に溢れており、さらに増殖中である」という現実です。この目線合わせが、まだ十分ではないように感じます。
現在の若手は、男女問わず家庭へ参画するようになっています。限られた時間と体力の中で、相当なやりくりをしているものと思われます。こうした状況をふまえ、「これまで当たり前にしてきたことも、本当にすべきことなのか」を見直し、不必要な仕事を安易につくらないこと、生産性向上のための真剣な努力が、今求められているように考えます。
【文献】
1)Kinoshita S, et al:Lancet. 2023;402(10409):1239-40.
三澤園子(千葉大学大学院医学研究院脳神経内科学准教授)[SNS][生産性向上][働き方改革][診療報酬改定]