2025年2月12日、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)」の改正案が閣議決定された。今回の改正には医薬品の安定確保も盛り込まれ、品質確保と安全対策の強化、品質確保された医薬品の安定供給が目的とされる。一方で、厚生労働省が後発医薬品を中心とする供給不足の主因としてきた「少量多品目」という表現は、改正案の骨子からは確認できず、削除されている。
品質確保と安全対策の強化に関しては、品質保証責任の明確化と安全管理責任者の設置が主な柱である。一方、品質確保された医薬品の安定供給については、基本的な考え方として、「後発医薬品産業における一部非効率な生産構造や過当競争等の問題が指摘」されており、「品質の確保された医療用医薬品の適切な供給を図る」ことが目標とされている。具体的な施策としては、「安定供給体制管理責任者」の設置と「安定供給体制確保のための手順書」(いずれも仮称)の作成の義務化が示されている。その他、医薬品不足に関する報告の義務化や、「安定確保医薬品」の法的明確化も盛り込まれている。
今回の改正案の安定確保策には、相変わらずその実効性についてはいくつかの疑問が残る。「少量多品目」という表現は削除されたが、「非効率な生産構造」という表現に置き換えられたにすぎない。そのため、非効率な生産構造が安定供給体制と具体的にどのような関係にあるのかは、相変わらず意味不明である。
当初、後発医薬品不足の主因であった品質および製造上の問題については、品質保証体制や安全管理責任体制によって対応されるべきものである。したがって、安定供給体制が具体的にいかなる責任を担い、その結果として供給不足の回避にどのように寄与するのか、その関係性を明確にする必要がある。また、「非効率な製造体制」についても具体的な定義がなされておらず、供給不足の原因と、それを解決するために法律で規定されるべき安定供給体制との関係が明示されていない。このような状況では、製造販売企業が具体的にどのような取り組みを行えばよいのか方向性が見えず、法律としての実効性を欠くと言わざるをえない。
本連載でこれまで繰り返し指摘してきた通り、近年の医薬品不足の要因には、医療機関や薬局による不適正な発注も含まれている。加えて、原材料調達や製造委託先の不安定性といった、上流のサプライチェーン上のリスク対策も重要である。これら流通・供給全体にわたる構造的課題も、安定供給体制の範疇として包括的に検討されなければならない。安定供給を法律上明記するのであれば、その前提として、安定確保に係るリスク要因を多角的かつ精緻に分析した上で、より具体的かつ実効性のある制度設計を提示する必要がある(本稿は、2025年1月10日厚生科学審議会「薬機法等制度改正に関するとりまとめ」に基づき作成した)。
坂巻弘之(一般社団法人医薬政策企画P-Cubed代表理事、神奈川県立保健福祉大学シニアフェロー)[薬機法改正][医薬品安定供給]