世界中の至る所で、覇権争いが勃発し、不穏なニュースが溢れている。根底には世界経済の低成長があり、歴史から学んできたはずの協調の価値を無視した「自国ファースト」方針が、世界を揺さぶり始めた。
日本経済は緩やかに持ち直していると言われるが、食料品の高騰、光熱費など日常生活では堅牢な成長を実感できない。米の価格が1年前に比べ1.5倍以上になり、備蓄米の放出が議論されている。日本人の主食である米の生産、販売は政府の統制下に置かれていたが、現在はそれらの管理も解かれ、2003年の「主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律」の改正後、流通の統制も解かれた。
温暖化による産量の減少、日本人の米離れ、日本食嗜好による海外輸出、米流通業者に届出をせず生産者が直接販売をするなど、流通量の実態が掴めていない。野菜価格の高騰も今後も続く見通し、温暖化による漁獲高や米以外の食糧にも大きな変化が起こっている。
日本、韓国、台湾など一部の国でしか使われないカロリーベースの食料自給率では、輸入された餌で育った牛や豚や鶏、卵などは、国内で育てられたものでも算入されない。また、食料の摂取量が著しく少ない高齢者も、1人として必要カロリーの分母に含まれる。さらに、年間2000万トンの廃棄食料ロスも分母に含まれるため、必要生産額から算定される国際標準自給率に比べ極端に低くなる。
医療界はコロナ禍のダメージから立ち直りが遅れ、7割の病院で赤字経営が続いている。最低賃金の引き上げに伴い人件費は上がり、効率性の高い働き方やIT導入で人件費を代替えするなどの構造改革を求められている。超高齢社会という人口分布とこれに伴う疾患構成の変化、診療科分布の格差に対応する医療の方向性を国の方針として明確に打ち出す時期である。高等教育の意味を論議する前に拙速に決まった「教育無償化」だが、日本人の生き方、生活様式を緻密に分析し、事実を共有しなければ的確な方針は示せない。
藤井美穂(社会医療法人社団カレスサッポロ時計台記念病院院長)[性差医学][構造改革]