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【識者の眼】「『漢方が危ない!』〜漢方を保険診療から外さないために」安藤明美

安藤明美 (安藤労働衛生コンサルタント事務所、東京大学医学系研究科医学教育国際研究センター医学教育国際協力学)

登録日: 2025-06-04

最終更新日: 2025-06-03

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日常診療では、「体が辛い、調子が悪い、冷える、疲れが取れない、胃腸の調子が優れない、眠れない……」といった症状を訴える方にしばしば出会います。有効な西洋薬がみつからないまま、“未病”の症状を抱えている方は少なくありません。こうした症状は、人々の生活や仕事に深刻な影響を与えています。現代の日本における東洋医学や漢方は江戸時代に確立され、未病の症状を抱える人々の生きづらさに多くの恩恵をもたらしてきました。

現代ではよく知られている「月経前緊張症候群」は、多くの女性が経験する辛い症状のひとつです。程度によって日常生活の質が大きく損なわれることが知られています。また、働く世代においても、重度の症状がある人では出勤しても生産性が落ちた状態(プレゼンティーイズム)であることが種々の研究で明らかになっています1)。漢方はこうした状態に有効とされる代表的な治療薬のひとつとして、症状緩和に大きな役割を果たしています。このほかにも、漢方が奏功する症状が多いこともあり、現代では多くの漢方薬が一般用医薬品(OTC)として、ドラックストアで比較的簡単に手に入るようになりました。

しかし、その副作用については一般に十分知られているとはいいがたく、危険性が潜んでいると言えます。漢方薬における副作用は、肝機能障害や電解質異常などが比較的多く、医療機関における採血で初めて明らかになることも少なくありません。OTCとしての漢方は、医療用漢方薬に比べて有効成分量が少ないものの、副作用報告では、OTC中10%前後という報告(2014年度の医療用漢方薬の副作用は全医療医薬品のうち0.42%)もあり、十分な注意が必要と言えます2)

多くの方の健康保持増進に貢献する漢方だからこそ、医療者のサポートのもと安全に服用頂きたいというのが、私たち医療者の願いでもあります。ところが、この漢方が保険適用から再び外されようとしています。2025年1月に衆議院において医療費削減を目的として、OTCと類似する漢方薬を含む医療用医薬品を保険適用から除外すべきとの提案がなされ、議論が進んでいます。同様な動きは、実は2009年にも起こりました。同年11月に内閣府の行政刷新会議による「事業仕分け」にて医療用漢方薬がOTC類似薬として保険適用から外されるとの議論が出ました。当時は日本東洋医学会などの関連団体、漢方薬メーカーなどが一丸となって国民的な署名運動に発展し、最終的に92万通を超える反対署名が集まりました。

増え続ける医療費を抑え、持続可能な保健医療を提供し続けるためには、定期的な見直しが必要ということに一定の理解は示したいと思います。しかしながら漢方は、高齢者のみならず、働く人々の心身をも支える大切な医療のひとつです。実際、激務をこなしている医療者の中にも漢方の恩恵を受けて仕事を続けることができているという方々も少なくありません。プレゼンティーイズムの改善という、社会的にも重要な成果を上げているこの医療を保健医療として守り、必要な人々に安定的に継続して届けることができるよう、ぜひ皆さまのお声を日本東洋医学会に届けて頂ければと思います。

日本東洋医学会の今後の対応については、広島大学の石田亮子先生から情報提供を頂きました。詳細は、日本東洋医学会のホームページにてご確認ください。

【文献】

1) Okamoto M, et al:Int J Environ Res Public Health. 2024;21(3):313.

2) 伊藤 隆. 日東医誌. 2016;67:184-90. 

安藤明美(安藤労働衛生コンサルタント事務所、東京大学医学系研究科医学教育国際研究センター医学教育国際協力学)[漢方][プレゼンティーイズム保健診療

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