著: | 黒木春郎(医療法人社団嗣業の会 外房こどもクリニック 理事長) |
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判型: | A5判 |
頁数: | 178頁 |
装丁: | 2色刷 |
発行日: | 2018年08月21日 |
ISBN: | 978-4-7849-4777-5 |
版数: | 第1版 |
付録: | 電子版閲覧用シリアルナンバー(巻末綴じ込み) |
【序章】 こんなとき漢方
【総論】
1 漢方薬とシステムバイオロジー
2 マイクロバイオームと漢方
3 漢方とエビデンス―RCTから個別医療へ
4 麻黄湯のインフルエンザへの作用機序─システムバイオロジーの視点から
【各論】
1 麻黄剤
(1)麻黄湯
(2)葛根湯
(3)その他の麻黄剤
2 柴胡剤
(1)柴胡桂枝湯
(2)小柴胡湯・小柴胡湯加桔梗石膏
(3)柴胡加竜骨牡蛎湯,桂枝加竜骨牡蛎湯
3 水毒
(1)五苓散
4 建中湯類
(1)小建中湯
(2)大建中湯,調胃承気湯,大黄甘草湯
(3)黄耆建中湯
(4)白虎加人参湯
5 精神症状へ
(1)抑肝散加陳皮半夏・抑肝散
(2)甘麦大棗湯
6 補剤
(1)補中益気湯,十全大補湯
(2)六君子湯
7 頑固な鼻閉,難治性副鼻腔炎
(1)排膿散及湯
(2)荊芥連翹湯
8 子どもの母親への漢方
(1)当帰芍薬散,加味逍遥散,桂枝茯苓丸
コラム
漢方薬に親しんでから,10年以上経った。特別なことをしているつもりはなく,日々の診療で患者さんの要望に応えようとしていると,次第に漢方薬が身近になってきた。臨床研究や基礎的な研究に関与する機会を頂き,漢方という日本で発展した東アジア伝統医学に魅了された。本書ではそうした成果もご紹介している。
漢方薬には西洋医学にはない効果がある。例えばウイルス性上気道炎(いわゆる感冒)を根本的に治癒させる薬剤は西洋医学では存在しない。「自然治癒」するから待てという方針となる。果たしてそれが最善の医療であるのだろうか。漢方はウイルス性上気道炎にも長い歴史の中で応えてきた。そして,西洋医学ならば100人の「感冒」患者さんは一つの「感冒」という疾患でおさまってしまうが,漢方の見方を取り入れると100人の感冒の患者さんは100通りの感冒である。
近年になり,これまでの思考のパラダイムシフトないし脱構築が盛んに言われている。哲学や科学を基礎に,私たちの思考に大きな変化が訪れている。ビッグデータやAI,ICT,それらが生物医学に導入されている。数学や工学が生物医学に参入する。そして医学は患者志向と個別医療へと進む。関連領域とのせめぎ合いがそれを可能した。俯瞰すると,東アジア伝統医学はその始まりから全体への視点があり,患者志向であり,個別医療であったことがわかる。現在の先端医学と同じことが含まれている。その大きな流れを本書で展開しようと思う。
小児科の臨床をしていると,保護者からいろいろと相談を受ける。そして,保護者とその児が,急性であれ慢性であれ,同じ疾患に罹患していることがしばしばある。また児と保護者の体質が似ていることに気が付く。それはアレルギー体質であったり,神経発達症に関連することであったりする。これを漢方の視点からみると「証」である。あるいは治療への反応性といってもよい。その観点から,いくらかでも保護者への役に立てるような方法を漢方を通じて学ぶことができた。そうした点も本書で触れている。
本書により読者の皆様が漢方の世界の魅力に触れ,また本書が日々の臨床のお役に立つことを願います。