著者: | 須田万勢(諏訪中央病院リウマチ膠原病内科) |
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判型: | A5判 |
頁数: | 192頁 |
装丁: | 2色部分カラー |
発行日: | 2021年10月31日 |
ISBN: | 978-4-7849-6314-0 |
版数: | 1 |
付録: | - |
序章「痛み探偵の誕生」
第1回頸部痛の研究
第2回膝痛の証明
第3回膝痛の証明 パート2
第4回まだらの腰痛
第5回第二の瘢痕
第6回消えた炎症
第7回腱のねじれた男
第8回這う女
第9回悪魔の足
第10回犯人は2人
第11回白銀指事件
第12回Dr.写六最後の事件(前編)
第13回Dr.写六最後の事件(後編)
論考「経絡,経穴はファシアで説明できるのか?」
終章「臨床医の仕事」とは?
コラム① エコーガイド下ファシアハイドロリリースの手順
コラム② エコーでの異常なファシアの見分け方
コラム③ 炎症性疾患の後に,どうして非炎症の痛みが出るのだろう?
コラム④『ファシア=筋膜』という概念を捨てよう!
コラム⑤ X線時代とエコー時代
コラム⑥ ワクチン筋注後に生じたFPS!?
コラム⑦ 治療方法から考える痛みの分類
コラム⑧ 上肢の末梢神経に対する神経テンションテスト
監修の序
価値のある発見は,辛抱強く観察したからにすぎない
(アイザック・ニュートン)
優れた観察は「緻密な理論」と「大胆な仮説」を創る。この仮説が支持され通説となり,通説を経た後に定説となる。定説とは「事実」だろうと多くの人が信じる「説」である。「説」は支持か破棄される対象であり,正しいか間違っているかで扱われる対象ではない。東洋医学と西洋医学,これらはいずれも目の前の個々の“現象(既知の事実)”を観察し, そこから一般論や本質を抽出し,「説」という物語を産んだ。そして,この物語を聞いた人は,自分の目の前の現象と重ね,その正しさを検証してきた。
観察力,質問力,関連づける力は,優れたイノベーターを象徴する
(クレイトン・クリステンセン)
著者である須田万勢医師は,患者に寄り添う医療を志し,家庭医療専門医を取得後, 聖路加国際病院における膠原病や炎症性疾患の診療と研究を通じて,従来の西洋医学を緻密に理解してきた。だからこそ,その限界を認識しつつも,患者を緻密に観察し,かつ問い続け,その優れた語学力で国内外を縦横無尽に馳せ,東洋医学の学びをも深めてきた。そして近年,ファシアに出会い,彼の
多様な経験を関連付け始めた。
私自身,fasciaを“筋膜” ではなく“ファシア” と名付け,“ハイドロリリース”という言葉と手技を考案した1人として,運動器疼痛より始めた本分野が,炎症と非炎症の謎を解き,西洋医学と東洋医学を関連付けようとする,本書の物語に紡がれたことをうれしく思う。
君はただ眼で見るだけで,観察していない。見るのと観察は大違いなんだ
(シャーロック・ホームズ)
本書「痛み探偵」とは,「痛み」という患者体験の原因(事実)を調べるために,目の前の現象を観察し,推理し,発見し,検証する,この一連のプロセスを辛抱強く繰り返す探偵の物語である。一見華やかに見える推理劇を繰り広げる,探偵の頭には「実は真犯人にも黒幕がいるかもしれない?」との不確定性を忘れていない。真犯人を暴く,その物語を一般化していくプロセスにおいて,本書で提示される「大胆な仮説」が,新しい疼痛診療の夜明けを導くことを心より願う。
弘前大学医学部附属病院総合診療部 小林 只
推薦文(五十音順)
聖路加国際病院 Immuno-Rheumatology Centerセンター長
岡田正人
総合内科の先生だけでなく,リウマチ膠原病内科医にもお勧めの痛みに関する実践書です。疼痛をこじらせて慢性疼痛になってしまっている患者さんの診療は, 患者さんだけでなく医療提供側にも大変つらいことがあります。これは痛みの原因を理解し薬物療法を行っても,いつの間にか炎症性の疼痛から治癒過程で非炎症性の構造的な問題になっていることが少なくないからかもしれません。この著書には,患者さんに心から感謝される治療法が満載されており, 症例に基づいた解説とQRコードによる豊富なエコー動画へのアクセスが理解を助けてくれます。
筋骨格系の超音波検査が急速に普及しはじめて10年以上たち,リウマチ膠原病内科の若手だけではなく,総合内科の分野でも重要な診断手技になっています。これまでは,実際に中を開けてみたことのある整形外科の先生にはかなわないと諦めていた肩などの複雑な関節も,自信を持って診断がつけられるようになりました。この本は, せっかくの筋骨格系エコーを診断だけでなく治療にも応用するための具体的な手技が, 症例検討を通して身につけられるように書かれたこれまでに類を見ない本です。
会話形式で書かれているので,まずは自分がそれぞれの患者さんを診察しているように考えながら読み進むことで理解も深まり, また実際の動画で確認することができます。痛みという大きな難題に正面から立ち向かう勇気をくれ, 筋骨格系の痛みを訴える患者さんの診療を楽しくしてくれるこの本を, より多くの先生に活用していただけることを心から願っています。
東京大学医学部附属病院リハビリテーション部鍼灸部門主任
粕谷大智
この度,須田万勢先生が書籍「痛み探偵の事件簿」を出されました。
この「痛み探偵の事件簿」は,日本医事新報に毎月掲載され大好評だった内容に一部加筆し1冊にまとめたものです。
この本,とにかく推理小説のような面白さがあります。
ある難治性の疼痛を愁訴とする患者さんが来院される。渡村クリニック院長は経験豊富な先生だが原因がわからない,そこで写六という西洋医学と東洋医学に精通し, 超音波エコーを自由に操る医師(須田先生自身)が登場し,患者の症状のある部分に着目し,触診所見やラボデータ,エコー所見も加味した病態把握とそれに応じた治療を開始する。そして,まさかの展開を迎えます。そこにいきつくまでの推察には説得力があり,とても完成度の高いミステリー仕立ての症例報告で,読み応え抜群の内容です。
東野圭吾,松本清張の小説のような,魅力的な登場人物,興味をそそる患者の症状とその背景,総合診療医としての詳細な問診や触診所見や超音波エコー所見からの病態解明へと繋げる文体は絶妙です。現在の薬物乱用の医療体制にもチクりと問題提起もしています。
小説を読むような感覚から,痛みの原因,必要な問診や触診所見を学び,エコー所見からわかる器質的・機能的な病態とそれに対する治療法も学べる。総合診療をめざす医師やPT,OT,鍼灸師などのコメディカルにも一読して頂きたいお勧めの本です。
福島県立医科大学会津医療センター総合内科学講座教授
山中克郎
私が勤務する会津医療センターには漢方内科と漢方外科(鍼灸部門)があり,西洋医学と東洋医学の融合による治療をめざしている。鍼灸が痛みやしびれの治療に威力を発揮することは疑いもないことだが, 下痢や便秘,呼吸困難にまで大変効果的だと知り非常に驚いた。従来の西洋医学だけでは説明できない未知の世界がそこには広がっているのである。
須田万勢先生の『痛み探偵の事件簿』をワクワクしながら読破した。整形外科医のみならずプライマリケア医が, 痛みの治療のためハイドロリリースという新しい手技を習得しようとしている。痛みの原因となっている重積したファシアをバラバラに剥がすのである。非常に効果的であるらしい。
本書では疼痛を取り除く東洋医学的なアプローチを, シャーロックホームズならぬ痛みの私立探偵「写六」とリウマチクリニック院長「渡村」医師がわかりやすく解説してくれる。コナンドイルの推理小説を読むかのごとく, あっと驚きの展開で痛みのメカニズムが解き明かされ治療原理が示される。
田舎では整形外科の需要が大きい。内科医が整形外科の非手術疾患に対する治療を行えば,地域住民のニーズに応えることができる。こんなことを妄想しながら本を読み終えた。さらに深くファシアや経絡を学びたい人は,この本と合わせて『閃く経絡 現代医療のミステリーに鍼灸のサイエンスが挑む』を読むことをお勧めしたい。