株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

【識者の眼】「医師偏在是正対策」小野 剛

小野 剛 (市立大森病院院長、一般社団法人日本地域医療学会理事長)

登録日: 2025-06-17

最終更新日: 2025-06-13

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

2040年を見据えた新たな地域医療構想の議論が始まった。今後、地域が「保険あって医療なし」の状況に陥らないためには、地域間における医師偏在を是正し、過不足のない医療提供体制の構築が必要である。医師偏在是正対策は、地域医療の最適化を実現するために重要な課題である。

厚生労働省は、2024年12月25日に「医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ」を公表した。人口構造が急激に変化する中で、将来にわたり地域で必要な医療提供体制を確保し、適切な医療サービスを提供するため、実効性がある総合的な医師偏在対策を推進することを目的に、「新たな地域医療構想」の推進と一体的に取り組むことになる。

経済的インセンティブ、地域の医療機関の支え合いの仕組み、医師養成過程の取り組み等の総合的な対策を若い世代だけでなく、中堅・シニア世代を含むすべての世代に向けてアプローチすることが基本的方向で、主な具体的取り組みは以下の5点である。

①医師確保計画の実効性の確保:「重点医師偏在対策支援区域」を設定し、優先的・重点的に対策を進める。医師確保計画の中に「医師偏在是正プラン」を策定する。

②地域の医療機関の支え合いの仕組み:医師少数区域等での勤務経験を求める管理者要件の対象医療機関に、自治体病院や国立病院機構・地域医療機能推進機構・労働者健康安全機構の病院を追加。医師多数区域における新規開業希望者に対し、地域で必要な医療機能の要請。保健医療機関の管理者要件を、2年の臨床研修および3年の病院での保険診療従事とする。

③地域偏在対策における経済的インセンティブ等:重点区域における診療所の承継・開業・地域定着支援。医師の勤務・生活環境改善・派遣元医療機関への支援。派遣医師への手当増額。全国的マッチング機能の支援。リカレント教育の支援。都道府県と大学病院の連携パートナーシップ協定。

④医師養成課程を通じた取組:恒久定員内の地域枠設置への支援。広域連携プログラムの制度化。

⑤診療科偏在の是正に向けた取組:処遇改善に向けた必要な支援を実施。

医師少数区域と医師多数区域への対策、規制的手法と経済的手法を組み合わせた取り組みである。効果が出るまではある程度時間がかかるのではないかと思われ、医師の意欲や、地域医療への情熱を高めるような対策を進めることが肝要と考える。また、具体的に対策を進める中で、若い世代の医師や医学生の意見にも耳を傾けながら対策をブラッシュアップしていくべきと思っている。地域に根ざした医師になってもらうためには、継続的な教育支援環境の整備が必要ではないかと考える。

さらには、今後地域医療が立ち行かなくなる要因のひとつとして考えられることは、医師だけでなく医療専門職不足であり、看護師、薬剤師はじめ、医療専門職の偏在対策も併せて検討すべきではないだろうか。

小野 剛(市立大森病院院長、一般社団法人日本地域医療学会理事長)[地域医療構想][医師偏在是正対策

ご意見・ご感想はこちらより

関連記事・論文

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top