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年金情報流出 - マイナンバー適用拡大は時期尚早だ [お茶の水だより]

No.4754 (2015年06月06日発行) P.13

登録日: 2015-06-06

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▼外部からのサイバー攻撃により125万件の年金情報が流出した事件は、10月から国民に12桁の番号が通知されるマイナンバー(社会保障・税番号)制度に不安を抱かせる事態となった。山口俊一IT担当相は、マイナンバーと年金機構との連携について「原因究明をした上で判断する」と慎重な表現にとどめたが、甘利明社会保障・税一体改革担当相は、「導入スケジュールに変更はない」と強調した。
▼マイナンバー制度の目的について政府は「複数の機関に存在する個人情報が同一人の情報であることの確認を行うための基盤であり、社会保障・税制度の効率性・透明性を高め、国民にとって利便性の高い公平・公正な社会を実現するための社会基盤」とアピールする。マイナンバーの利用範囲は社会保障と税分野、災害対策とすることが法律で規定されている。医療分野は、生命・身体・健康等にかかわる機微性により、保険給付や保険料徴収など保険者の手続きに限定した。利用範囲の拡大については、法施行後3年をメドに検討すると附則で定められた。
▼ところが、法施行前の今国会に、利用範囲の拡大を目指すマイナンバー法改正案が提出された。預貯金口座にも適用するほか、医療分野では特定健診の結果や、予防接種履歴にも適用を拡大。さらに厚労省は5月29日、産業競争力会議の課題別会合で健康保険証の機能を持たせる方針を明らかにした。マイナンバーへの健康保険証機能の取り込みは日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会が「患者の病歴という極めてプライバシー性の高い情報が個人番号と紐付く危険性が高くなる」として反対していた。
▼医師には守秘義務がある。それは「よき医療を施すためには患者からの率直な事実の開示が不可欠で、そのためには開示した事実が他に漏洩されることがないという医師への信頼がなくてはならないと考えられたから」(日本医師会参与、手塚一男弁護士)。患者が時に、家族にも伝えていない病歴や体調不良を医師に伝えるのは、医師への信頼が大前提にある。だからこそ医療情報の流出はあってはならず、その管理は汎用性よりも安全性を重視しなければならない。
▼今回の年金情報の大量流出は、マイナンバーが流出した時に紐付けされた情報が芋づる式に流出する不安を強くさせた。しかも制度はまだ始まってもいない。こうした状況でマイナンバー制度の利用範囲の拡大の議論を進めるのは時期尚早で、今回の事件の原因究明・再発防止策を徹底することが先決だ。


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