デイヴィッド・ミッチェルの小説『クラウド・アトラス』を原作とするSF映画。過去から未来の時空を超えた物語(DVD:ワーナー・ホーム・ビデオ、米2012年・日本2013年公開)
2013年、熊本へ来て6年ほどたったとき、私は社会医学者としての矜持について思い悩んでいた。私が医学に興味を持ったきっかけは、小学校時代にテレビで目にした公害病で苦しむ人の姿であり、人々の力になりたいという初心にあった。生命のしくみにひかれ、大学院では生化学を学んだが、修了後は自分の原点である社会医学の道へと戻った。しかし、人生経験を積んでいくと、人のために役に立ちたいという想いだけで、希望がかなうほど社会は簡単ではなかった。特に社会医学は、現実社会との接点こそが基本であり、「真実と事実の違い」や「立ち位置によって異なる正義」など、私は社会医学ならではの問題に苦しむことが多くなった。そして、「絶対的な判断基準などない」と思いはじめた頃に出会ったのが、映画「クラウド アトラス」であった。「マトリックス」シリーズのウォシャウスキー姉妹が「ラン・ローラ・ラン」のトム・ティクヴァ監督とタッグを組み、人類永遠の謎に挑戦した作品である。3時間に及ぶ長編映画であり、輪廻、因果応報、永遠の愛など、一言では説明できないような内容であったが、記憶に残った2つの言葉があった。
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