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【私の一冊】『クラウド アトラス』

No.4847 (2017年03月18日発行) P.83

加藤貴彦 (熊本大学大学院生命科学研究部環境生命科学講座公衆衛生学分野教授)

登録日: 2017-03-18

最終更新日: 2017-03-14

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  • デイヴィッド・ミッチェルの小説『クラウド・アトラス』を原作とするSF映画。過去から未来の時空を超えた物語(DVD:ワーナー・ホーム・ビデオ、米2012年・日本2013年公開)

    希望を持ち続ける大切さを感じた一本

    2013年、熊本へ来て6年ほどたったとき、私は社会医学者としての矜持について思い悩んでいた。私が医学に興味を持ったきっかけは、小学校時代にテレビで目にした公害病で苦しむ人の姿であり、人々の力になりたいという初心にあった。生命のしくみにひかれ、大学院では生化学を学んだが、修了後は自分の原点である社会医学の道へと戻った。しかし、人生経験を積んでいくと、人のために役に立ちたいという想いだけで、希望がかなうほど社会は簡単ではなかった。特に社会医学は、現実社会との接点こそが基本であり、「真実と事実の違い」や「立ち位置によって異なる正義」など、私は社会医学ならではの問題に苦しむことが多くなった。そして、「絶対的な判断基準などない」と思いはじめた頃に出会ったのが、映画「クラウド アトラス」であった。「マトリックス」シリーズのウォシャウスキー姉妹が「ラン・ローラ・ラン」のトム・ティクヴァ監督とタッグを組み、人類永遠の謎に挑戦した作品である。3時間に及ぶ長編映画であり、輪廻、因果応報、永遠の愛など、一言では説明できないような内容であったが、記憶に残った2つの言葉があった。

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