夭折の詩人・村上昭夫が1960年代に発表した唯一の詩集。2000年に思潮社から刊行された「現代詩文庫159 村上昭夫詩集」に収録。写真は1993年に「動物哀歌の会」から刊行されたもの
私の勤めている大学は郊外にある。市内にある家から田園地帯を走って車で通っている。田園を縦断する国道の信号待ちをしていると、道の傍に田圃がある。水辺にはオタマジャクシがいるであろうが車の窓からは見えない。あぜ道に紫色の小さな花が咲いている。その花を見ると田舎の青春時代を思う。しかし何という花であったか思い出せない。
その花のように思い出したいが名前が浮かばない詩があったはずだと、思う時があった。出だしの4行だけは覚えていた。
雁の声を聞いた/雁の渡ってゆく声は/あの涯のない宇宙の涯の深さと/おんなじだ
深い絶望を覗いた詩人の声だったような気がする。誰が書いた詩で何という詩集に載っていたか思い出せなかった。そんな詩集があったはずだと人生の信号待ちに思いつくが、探して読むことはなかった。思い立って車を降りて花を見ようと思わないように。
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