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かかりつけ医とつながる安心感がオンラインのメリットです[スタートアップ!オンライン診療(4)]

No.4915 (2018年07月07日発行) P.14

登録日: 2018-08-09

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2018年度診療報酬改定では外来・在宅に続く新たな医療提供のあり方として、ICTを用いた診療を評価する「オンライン診療料」が新設された。4月に保険適用となってから約3カ月が経つが、臨床現場ではどのように運用されているのだろうか。本シリーズ4回目は、関東近郊で保険適用前からオンライン診療を提供している診療所の事例を紹介し、オンライン診療の活用法や今後の課題について考えてみたい。【毎月第1週号に掲載】

神奈川県海老名市にある「えびな脳神経外科」では、2017年2月からオンライン診療を導入している。院長の尾﨑聡さんは脳神経外科の専門医のため、同院では脳卒中や脳血管障害、認知症といった患者が多い。尾﨑さんは予防から診断、治療後のケアまでトータルでのサポートを重視し、訪問リハビリテーションにも力を入れている。そうした診療方針に基づき、不可能ではないものの通院が困難になってしまった認知症患者などに対するサポートとして、オンライン診療の提供を始めた。

しかし多くの高齢者にとっては、スマートフォンやPC、タブレットを使うこと自体に高いハードルがある。オンラインでの受診を勧めても家族と同居していなかったり、家族が多忙だったりするケースが少なくないため、なかなか登録する患者が増えなかったという。

「認知症の患者さんでよくあるのが、家族が外来に連れていこうとすると『嫌だ』となって、ひと悶着起きてしまうケースです。嫌がる大人を無理やり引っ張っていくのは容易ではありませんし、お勧めもできません。積み重なれば、会社を休むなどして付き添いのために時間を割いた家族や周囲との関係性にも悪影響を及ぼしかねません。こうした事態を避けるためにも、認知症をはじめとする高齢者に対してオンライン診療を普及させていきたいと考えています」(尾﨑さん)

子育て世代の頭痛外来にニーズ

一方、オンライン診療のニーズが高かったのは頭痛外来に通う患者だ。片頭痛は20~40代の女性に多く、子育て中のお母さんの利用が増えているという。

頭痛外来での活用について尾﨑さんはこう語る。「頭痛外来では、初診は対面でCTなどの検査を含めしっかりと原因を探ります。ただ診断がついた後は、頭痛の頻度が多い場合はCa拮抗薬やβ遮断薬など、症状が軽い場合はトリプタン系といった形で薬剤のコントロールがメインになるため、オンライン診療に向いています。小さなお子さんを連れて待合室で長時間待つことは難しいですし、インフルエンザが流行する季節などは病気でない子どもを医療機関に連れていきたくないというお母さんの心情も理解できます。頭痛はオンライン診療料の対象とならなかったので積極的に勧めることはしていませんが、頭痛はQOLに大きな影響があり、今後もニーズは増えていくと思います」

保険診療で今後力を入れていくのはてんかん患者へのオンライン診療の提供だ。「てんかん治療は頭痛と同じように、発作が起きていない限りは薬のコントロールが中心です。てんかんの患者さんは増えてきていますし、『てんかん指導料』を算定している患者さんは比較的若くデジタルにも前向きです。オンライン診療の強みが発揮できると思います」(尾﨑さん)

対面と遜色ない遠隔操作機能

同院が導入しているツールは、MRT(株)と(株) オプティムの「ポケットドクター」(https://www.pocketdoctor.jp/)というアプリだ。17年には、経済産業省が推進する「サービス等生産性向上IT導入支援事業」に認定された。

ポケットドクターの機能面での特徴は、予約から診療、クレジットカード決済、処方箋・医薬品の配送まで、診療に必要な一連の流れをカバーしているところにある。中でも特許技術を取得している遠隔操作機能は、高画質のビデオ通話に加え、患者の表情や患部の状況について写真のやりとりや赤ペンでの書き込み、指差しなどができる機能(図1)が搭載され、診察の質を高めている。



遠隔操作機能の充実について尾﨑さんは、「気になるところがあれば医師が赤ペンで丸をつけ、患者さんにアップで映してもらうことも可能です。画面を通じてではありますが、フェイス・トゥ・フェイスでの細かいやりとりができるので、その安心感が疾患や治療に対する理解につながり、対面とそれほど遜色のないコミュニケーションが取れていると思います」と効果を実感している。

ポケットドクターでは、スマートフォンと連携可能なヘルスケア機器から取得したバイタルデータ(図2)を活用した遠隔モニタリングも可能だ。取得できるのは①血圧、②血糖値、③体重、④心拍数、⑤歩数、⑥SpO2、⑦体温─の7種類。視覚的に数値を捉えることで医師が症状の変化を把握し、患者にとっては生活習慣に対する意識向上につながる効果も期待できる。

“初診から6カ月”しばりの緩和が課題

18年度改定では、不適切事例の予防という観点から、厳しい算定要件が設定された。一方で政府の規制改革推進会議は6月4日にまとめた「第3次答申」で、オンライン診療のさらなる普及に向け、20年度の次期改定で要件緩和が必要と強調している。オンライン診療を提供する現場の臨床医として尾﨑さんが見直しのポイントに挙げるのは、「初診から6月の間は毎月同一医師により対面診療を行っている」という対象患者の要件、いわゆる“6カ月しばり”だ。

「在宅医療が必要なほど悪化はしていないものの、通院が難しい患者さんは今後増えていきます。こうした状況で初診から6カ月の対面診療を義務づけてしまうのは、患者さんの利便性を損なうことになると思います。オンライン診療なら自宅でかかりつけ医とつながっているという安心感を持つことができます。初診は対面が必要ですが、その後は疾患や状態によってもう少し医師の判断に任せてもらえるような運用にしてほしいですね」

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