2019年末に拙書『小説「安楽死特区」』(ブックマン社)という書籍が世に出た。過去10年間、医学書や一般書を50冊以上書いてきたが、本書は初めての小説なので読者の反応が不安だった。さっそくある重鎮からタイトルを見ただけで「けしからん」というお叱りを受けた。しかし幸いなことにアマゾンの文芸部門1位になり、発売1週間で重版された。応援して頂いた皆様に感謝申し上げる。なぜこんな小説を書いたのか、また各方面から頂いた様々な感想を今回、ご紹介したい。
本書を書こうと思った動機は単純である。近年、様々なメディアによる調査では市民の7〜8割が安楽死に賛成している。長生きして最期は潔く、という望みだろうか。またある高校で高校生自身が行ったアンケート調査でも7割の高校生が「安楽死に賛成」と回答した。案外ドライなのか、それとも高齢者の社会保障費の負担を懸念しているのだろうか。日本は空前の安楽死ブームにあるといっていいだろう。著名人のなかには書籍やテレビで「日本でも安楽死の法制化を!」と声高に叫ぶ人を見かける。
しかしその前に聞きたいことがある。そもそも安楽死と尊厳死を区別しているのだろうか? もちろん両者は別物だ。一般財団法人日本尊厳死協会は安楽死に反対している。以前、有名な言論誌で『安楽死・尊厳死特集』が組まれていた。100名もの有識者に安楽死の賛否を問いその論拠が記されていた。しかしそもそも尊厳死と安楽死を混同したり、間違えている人が大半であった。両者の区別がついていると筆者が判断できた有識者はたった数人だけ。日本を代表する有識者の見識がその程度であるなら一般の方や高校生の理解度はさらに低いのだろう。その一方で、安楽死願望だけがどんどん膨らんでいく日本人の死生観に大きな違和感を覚えていた。そこで私はまずは両者の違いを小説という形で描いてみよう、と思い立ち、群像劇にして考えてみた。しかしさすがに慣れない作業に3年間も費やすことになった。