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苦しむ患者さんから逃げない! 医療者のための 実践スピリチュアルケア

緩和ケアのためのバイブル! 良き理解者となるために!

定価:2,860円
(本体2,600円+税)

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著: 小澤竹俊(めぐみ在宅クリニック院長)
判型: A5判
頁数: 210頁
装丁: 2色刷
発行日: 2008年03月25日
ISBN: 978-4-7849-4300-5
版数: 第1版
付録: -

治すことのできない患者さんを前にしても、逃げ出すことなく最期まで良き理解者として支え続けるにはどうすればよいのか? その解決策を明示した画期的内容です。単なる痛み止めの医療を超えた真の緩和ケアを実践するための具体的方法と理論的枠組みを詳述しています。実際の会話記録を元にスピリチュアルペインのアセスメントとケアの方法をわかりやすく解説。看取りに関わることで自身も苦しむ医療者のための福音書です。

目次

第1章 緩和ケアが広がるために
第2章 スピリチュアルペインを理解するための認識論
第3章 信念対立を克服するための現象学
第4章 スピリチュアルケアを理解するための存在論とスピリチュアルペイン
第5章 事例を通して学ぶ3つの存在論
第6章 3つの柱で支えられた平面モデル
第7章 援助的コミュニケーション
第8章 会話記録による学び(良い聴き手になるために)
第9章 スピリチュアルペインのアセスメントとケアの実際
第10章 スピリチュアルペインのアセスメントとケアの実際〈応用編〉
第11章 援助者のスピリチュアルペイン

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序文


少しでも患者さん・家族の力になりたい。少しでも患者さん・家族にとって良いサービスを提供したい。─?医療従事者としていつも願うことです。そのために、医師であれば病気の診断や治療に関する新しい知見を学ぶことは欠かせません。看護師でも、良い看護を展開するためにも、研修を定期的に受けていく必要があるでしょう。遺伝子レベルの研究が進み、医療の世界は日々進歩しています。一昔前ならば、治ることはないと言われていた病気が治ることによって、患者さんは社会復帰することができる時代となりました。

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治る病気であれば、私たちは患者さん・家族と積極的に関わることは決して難しくありません。いくつかのステップを踏みながら、ていねいに治療を展開していけば、病状の改善を期待できるでしょう。苦しんでいた患者さんと家族が喜ぶ姿を見ることは、医療従事者として言葉では言い表すことのできない喜びです。患者さん・家族の喜ぶ顔が見たいと思うからこそ、医療に携わる者は、たとえ厳しい環境の中にあっても仕事を続ける力がわいてきます。

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では、受け持ちの患者さんが治らない病気であればどうでしょうか?どれほど最先端の医学をもってしても、すべての病気を治すことはできません。私たちが関わる患者さんの中には、進行がんであったり、難治性の心不全であったり、回復が困難な進行性の難病であったりする方がいます。たとえ生命を保つことができても、重度の障害を抱えてしまうことがあります。外傷による脊髄損傷のため、一生を下半身麻痺で過ごさないといけない患者さんがいます。脳梗塞による高次中枢障害のため、発語や嚥下が困難となり、胃瘻による経管栄養を強いられる患者さんもいます。

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「元気な身体に戻りたいのです。先生、なんとか治して下さい…」

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患者さんから、このように声をかけられたら、どのように返答しますか?

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「もう元の身体に戻ることは医学的には無理です、あきらめて下さい」と説明するでしょうか?「わかりました、私がなんとかしましょう」と答えるでしょうか?

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リハビリをして、ある程度の自立した生活を送ることができるならば、関わる可能性が見えるかもしれません。しかし、どれほど心をこめて医療を展開しても、病気そのものを治すことができず、残された時間が限られた終末期の場合にはいかがでしょうか?

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「どうして私は、この病気になったのですか?」

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「私の生きる意味って何ですか?」

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医療や介護の現場で従事している人であれば、一度や二度は、この言葉を聞いたことがあると思います。「なんで私が?」という問いかけは、どれほど医学や科学が発達しても答えることのできない問いかけです。安易な励ましがまったく通じない場面でもあります。

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少しでも力になりたいと願いながら、なかなか気の利いた言葉が浮かばなくて、その場にとどまることがつらくなるかもしれません。何か話題を変えようと思うかもしれません。何か励ましてあげたいと思うかもしれません。しかし、相手を思えば思うほど、言葉が浮かばなくなることが多いでしょう。

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安易な励ましがまったく通じない場面において、励ましではない方法で、理不尽な悩みや苦しみを抱えた患者さん・家族の力になることはできるのでしょうか?

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〔課題〕

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「どうして私は、この病気になったのですか?」「私の生きる意味って何ですか?」─?このように安易な励ましがまったく通じない理不尽な苦しみを抱えた患者さん・家族に対して、励ましではない方法で、苦しみをやわらげる援助を多くの人にわかる言葉で簡単に説明して下さい。

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この本では、不可能と思われるこの課題に対して、わかりやすい形でその可能性を提示してみたいと思います。

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そんなことできるのですか?と疑う人もいるでしょう。

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私は、横浜甦生病院ホスピス病棟で働いている時代に、当時東海大学で教えられていた村田久行先生(現京都ノートルダム女子大学教授)から、スピリチュアルケアについて教えを受けました。村田先生は、哲学をベースに対人援助を研究され、提示されるスピリチュアルケアの理論はきわめて明快でありました。そして、励ましではない方法で、理不尽な苦しみを抱えた人が生きる力を取り戻すための援助を、理論的な枠組みで示すことを学びました。このエッセンスを、私は「いのちの授業」として小学校や中学校でも展開し、実践してきました。

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終末期を迎えた患者さんを受け持ち悩んでいる人、これから緩和ケアを学び少しでも終末期の患者さん・家族の力になりたいと考えている人、どうかこの本が、あなたの力になることを祈っております。

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2008年 2月  めぐみ在宅クリニック院長 小澤竹俊

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補足

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この本では、臨床現場で、苦しむ患者さん・家族と向き合う可能性を示すために、スピリチュアルケアの理論と実際をわかりやすく紹介しました。まずは、臨床の現場で、苦しむ人に対して、逃げないで向き合う誰かが必要だと思うからです。

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しかし、スピリチュアルケアを必要とする患者さん・家族の中には、精神科専門医の診察を必要とする場合があります。向き合い、話を聴くこと、関わることはとても大切なことですが、すべてを解決することは困難なことがあります。患者さん・家族の状況によっては、専門医の診断の上で抗うつ薬や抗不安薬を必要とする場合があることを銘記すべきです。

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この本で紹介するスピリチュアルケアの理論的な枠組みや援助的コミュニケーションは、村田久行先生(京都ノートルダム女子大学教授)より教えていただいたものです。そして、村田先生の考えをベースに、私が、よりわかりやすく説明を加えたものです。村田先生の文献は191頁に紹介してありますので、参照下さい。

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レビュー

自著紹介

小澤竹俊/めぐみ在宅クリニック 院長
この本で紹介したかったことは、一言でいうと“逃げないこと”です。どれほど臨床経験を積んでも、私たちはしょせん弱い一人の人間にすぎません。死を前に苦しむ人の前で、何かできるのかといえば、ほとんど何もできないに等しいかもしれません。それでも逃げないで、苦しむ人と関わり続けることのできる私たちでありたいと願います。
ただ逃げないでそばにいろといっているわけではありません。向き合うには、向き合うだけの確かな根拠を示したいと思っていました。そこで登場するのが、スピリチュアルケアの理論的な枠組みです。言葉を失うような場面に遭遇しても、逃げないで関われる可能性を持ち続ける時、苦しむ人と最期まで向き合うことのできる真の援助者の道が拓かれます。この本が、少しでも、苦しむ人と向き合いたいと願う援助者のお役に立てれば、これ以上の喜びはありません。

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【書評】スピリチュアルケア論と豊富な実践例の指南書

的場康徳/鹿児島大学大学院腫瘍制御学
スピリチュアルペイン(自己の存在と意味の消滅から生じる苦痛)は、臨床現場でしばしば出合う苦しみにも係わらず、がん診療にかかわる医師の多くはこの痛みにどう対応したらいいのかを知らない。患者から「こんな治療をしたって意味がない!」、「みんなに迷惑をかけてまで生きていたくない!」と訴えられると、言葉に詰まったり、医学的な説明を繰り返し行ったりするが、その説明が患者の心に響いていないことは経験者ならわかると思う。
その理由は、患者の訴えが身体的でも、心理・精神的でも、社会的でもない問題、すなわちスピリチュアルペインであるからだ。そして、既存の医学教育や卒後研修には、スピリチュアルペインに対する理論も技術も存在しない。
「この問題を解決できない限り、たとえがん対策基本法が施行されても、適切な緩和ケアが普及する可能性は厳しい」と著者の小澤先生が指摘する「この問題」とは、医療のパラダイムが置き忘れてきた、あるいは避けてきたスピリチュアルケアのことを意味する。
本書は、京都ノートルダム女子大学大学院教授、村田久行先生の対人援助論とスピリチュアルケア論、いわゆる村田理論を小澤先生流の味付けをしつつ、紹介してくれる。村田理論は、それまで感性やフィーリングで語られることが多かったスピリチュアルケアを、哲学的アプローチで言語化し、理論的裏付けのある行為として確立したものである。
小澤先生は緩和医療の豊富なご経験を基に、理論の紹介と実践例を一つひとつ丁寧に解説してくれる。また、多数の講演会のご経験も生かし、理論を平易に解説するための創意工夫が随所に施されている。例えば、人間の存在を三つの柱で支えられた平面モデルで説明するのは小澤先生オリジナルで、初心者にも概念をイメージしやすいように考案されたという。
医療者がスピリチュアルケアの理論と技術の存在を知ることで、スピリチュアルペインを抱く患者やその言葉から逃げない、避けないためのきっかけとなる本書をお薦めしたい。

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