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【識者の眼】「名前と指し示すものの混乱がしばらく続く」大津秀一

No.4996 (2020年01月25日発行) P.59

大津秀一 (早期緩和ケア大津秀一クリニック院長)

登録日: 2020-01-24

最終更新日: 2020-01-21

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2019年11月下旬、吉本興業の小藪千豊氏を起用して厚生労働省が作成した人生会議のポスターが批判を受け、話題になりました。皆様もACP(アドバンス・ケア・プランニング)という言葉をお聞きになったことがあると思います。その普及のため2018年より厚労省はACPの愛称を人生会議として普及に乗り出していたのでした。

定義は、厚労省によると「もしものときのために、あなたが望む医療やケアについて前もって考え、家族等や医療・ケアチームと繰り返し話し合い、共有する取組」であると。「もしものとき」とあり、死や重症疾患で意思表示が困難となることを見据えて「医療や療養に関する意向や選好、その提供体制等」「病状や予後の理解」について話し合うことと解されます。

一方で本来のACPは必ずしも死を前提としたものではなく「あらゆる年齢や健康状態の成人」が対象です(Sudore RL, et al:J Pain Symptom Manage. 2017;53(5):821-32.)。話し合う内容も「本人の気がかりや意向、価値観や目標」などが含まれます。つまり健康な成人であっても、本来ACPを行う主体となりうるのです。もっとも、その効用自体は不明確ではあります。しかし、これまでおよびこれからの生き方をご家族等と話し合うこと自体は何ら悪いことではないでしょう。

ポスター事件後も様々な医師から多様な発信がありました。その中で複数指摘があったのは、厚労省が人生会議と呼称しているものはACPではなくAD(アドバンス・ディレクティブ)つまり旧来の事前指示書に近いのではないかというものです。確かに「もしもの時」を前提とするならば、「あらゆる年齢や健康状態の成人」が対象で「生き方」等についての共有も含まれる本来のACPよりはADと解されるでしょう。名前と指し示すものの混乱がしばらく続くと推測されます。

ACPをよく知る一般国民はわずか3.3%、終末期医療について家族と詳しく話し合ったことがある国民の割合も2.8%とされます。現場では、唐突な、医師からの「もしもの話」は好まれない傾向なども認められ、理解と実践が定着するには時間がかかりそうです。

大津秀一(早期緩和ケア大津秀一クリニック院長)[人生会議][ACP]

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