2018年5月、米Google系の企業ウェイモが開発中の自動運転車が、アリゾナ州で走行試験中に衝突事故に巻き込まれました。当時、自動運転の責任問題について議論が巻き起こったことは、記憶に新しいと思います。
近年、人工知能(AI)の医療への応用が盛んです。米食品医薬品局(FDA)は2018年4月11日、IDx社のAIを使った糖尿病網膜症の診断機器を承認し、AIによる糖尿病網膜症の診断を認めました。同年12月6日には日本でも大腸の腫瘍性ポリープの判別に関する内視鏡画像診断支援ソフトウェア(EndoBRAINⓇ)が医薬品医療機器法の承認を得ました。このように優れたソフトウェアが開発され、医療分野におけるAI利用が発展しています。
それでは、AIによる医療診断は誰が責任を負うのでしょうか?
2017年の厚生労働省「保健医療分野におけるAI活用推進懇談会報告書」では、「診断確定や治療方針の最終的な意思決定は医師が行い、その意思決定の責任も当該医師が負うべき」として、確定診断そのものをAIが行うことを否定し、確定診断は医師の役割であるとしました。このような報告を踏まえ、2018年12月には、厚生労働省が「人工知能(AI)を用いた診断、治療等の支援を行うプログラムの利用と医師法第17条の規定との関係について」(医政医発1219第1号)という通達を出しました。当該通達では、「人工知能(AI)を用いた診断・治療支援を行うプログラムを利用して診療を行う場合についても、診断、治療等を行う主体は医師であり、医師はその最終的な判断の責任を負うこととなり、当該診療は医師法(昭和23年法律第201号)第17条の医業として行われる」として、AIが利用されたとしても、医師が医業として診断、治療を行うことを明確化しました。
ただし、2019年の厚生労働省「保健医療分野AI開発加速コンソーシアム 議論の整理と今後の方向性」では、「AI技術の進歩は目覚ましいことから、人間とAIの協働などに関する他の分野での議論や技術的進展を見ながら、今後も(このような建前を継続するべきかについて)継続的な議論が必要」とされています。
つまり、日本では、人間の医師に最終診断させるという立場を当面は継続するものの、今後は異なる政策判断をする余地を残していると理解されます。
このように現状では、「医師が最終診断をするのであってAIは支援にとどまる」という説明が正しいようです。ここで大切なのは、我々医師は、固定観念にしばられるのではなく、新しいテクノロジーやイノベーションに敏感であり続け、患者さんにとって最良の医療を提供し続けることではないでしょうか。
※上記は猪俣武範、松尾剛行、共著『医者と弁護士が知っている 日本の病院 7つのなぜ?』 (クロスメディア・パブリッシング)より一部改変・抜粋しています。
猪俣武範(順天堂大学医学部眼科学教室、戦略的手術室改善マネジメント講座、病理管理学、准教授)[AI]