No.5000 (2020年02月22日発行) P.63
倉原 優 (国立病院機構近畿中央呼吸器センター内科)
登録日: 2020-02-19
最終更新日: 2020-02-18
1年前、診療報酬の妊婦加算が凍結となった背景にはSNSにおける炎上があった。Twitterで「これは妊娠税だ」「少子化対策に逆行する」という批判が広がったのだ。これにより妊婦加算が凍結されるに至ったわけだが、2020年4月からの再開の芽はなくなり、事実上廃止となることが決定した。
SNSの炎上に端を発したこの議論、きわめて感情的な側面が大きく、短絡的だと思った。妊婦加算に対する、医療従事者と国民の理解には大きな乖離があった。妊婦加算とは、そもそもどんどん日本の産婦人科がつぶれていく中で、産科診療をどうにか維持するための加算だったはずだ。妊婦の診療をより良いものにする理念があったのに、それが真逆に受け取られてしまった。「自分たちは応援されている」「大切にされている」と妊婦が感じられなかったことがTwitterでの炎上を招き、お金を搾取されているような負の感情を抱かせてしまった。マスメディアも、診療報酬における加算の全体像を説明したところはほとんどなく、まるで妊婦だけに悪しき加算が行われているかのような曲解が目立った。また、妊娠に関連しない診療(コンタクトレンズ処方など)においても算定できるような、杜撰なシステムだったことも問題であろう。
厚生労働省は、妊婦加算に代わる新たな仕組みを作る見通しである。医療機関同士が治療内容や検査結果について情報共有した場合に加算するような施策になる見込みであるが、従来の妊婦加算の理念とは程遠い内容になると思われる。
それにしても、ここ数年、SNSが世論を動かす時代に変わってきたのは驚きである。
倉原 優(国立病院機構近畿中央呼吸器センター内科)[医療SNS ]