No.5000 (2020年02月22日発行) P.62
南谷かおり (りんくう総合医療センター国際診療科部長)
登録日: 2020-02-20
ある日、当院の国際診療科に「JAK2遺伝子変異のある本態性血小板血症」で経過観察中のスイス人男性から受診のお伺いメールが届きました。仕事で大阪に引っ越すことになり、血小板がある数値を超えると勤務ができなくなるので、当院で検査が可能か知りたいという内容でした。当院の血液内科に打診したところ、了承を得たので患者は来日3日後に来院しました。患者とメールを交わした国際医療コーディネーターが調整し、診察には当院の英語医療通訳者が同席しました。担当医師は患者を診察し希望通りに血液検査をオーダーしたのですが、1時間後の結果説明で問題が起きました。結果を知らされた患者が、自分はこんなに多くの項目は頼んでいないし、必要ないので支払わないと言い出したのです。患者は血液検査には同意しましたが、担当医師はオーダーする項目までは確認していませんでした。
相手が日本人患者であれば、普通は保険診療で自己負担は3割ですし、患者が項目まで指定することは、まずありません。しかし、検査を受けたスイス人男性は来日したばかりで医療費は自己負担のうえに血液検査には慣れていて、ある意味通の患者さんでした。医師としては今回初診でいろいろと把握しておきたい考えもあり、多めに検査をオーダーしたので確かに高額となっていました。当院では、税金を納めていない訪日外国人患者の医療費計算は1点20円となっており、そこには医療通訳サービスや英語でのメール対応等も含まれています。押し問答の結果、医師が今回の血液検査はなかったことにするので、次回から患者の希望の検査のみをオーダーして支払っていただくということで決着がつきました。両者の言い分とも間違っているとは言えません。ただ、お互いの常識においては想定外だったのです。
この記事を読んで「これだから外国人は…」と拒絶反応を示すのか、「多文化対応とはこういうことか」と思えるのか、日本のグローバル化は今まさに分岐点に立たされていると言えます。
南谷かおり(りんくう総合医療センター国際診療科部長)[外国人診療]