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長崎から福島に移って見えてきたもの[福島リポート(31)]

No.5002 (2020年03月07日発行) P.52

井山慶大 (福島県立医科大学放射線災害医療学講座)

登録日: 2020-03-09

最終更新日: 2020-03-03

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  • 震災当時の自分

    2011年3月11日の東日本大震災当日、私は長崎大学医学部の4年生(新5年生)であった。当時は何が起こったかあまり深くは考えておらず、恥ずかしながらどこか他人事のような感覚を持っていた。その翌年になって、初めて福島を訪れた。当時は、沿岸部の浜通り地区には依然として警戒区域が設定されていたが、福島市では居住制限が徐々に解除され通常の生活が送れるようになってきた頃である。学生の私にとって印象に残ったのは、健康影響に不安を持つ住民、風評被害に苦しむ農家の皆様の姿であった。その一方で、福島で生活をしている方々の前向きな思考に触れ、自分への活力と自身の生きる意義を考える機会を与えていただいた。

    長崎での活動

    2013年に長崎大学医学部を卒業後は、長崎大学病院で救急・循環器の臨床に従事してきた。一方で、大学院生として長崎大学原爆後障害医療研究所に所属し、当時の放射線災害医療学研究分野(山下俊一教授)に席を置かせていただいた。そこでは、光武範吏先生(現放射線災害医療学研究分野教授)に直接のご指導をいただき、福島第一原子力発電所事故後の、福島における小児甲状腺癌の遺伝子変異について研究を行った。

    福島第一原発事故後、県民健康調査事業の一環として事故当時18歳以下を対象に開始された甲状腺超音波検査の結果、福島県内で甲状腺癌患者が発見された。福島第一原発事故はチェルノブイリ原発事故と比較し被ばく線量が非常に低いこと、発見者の年齢が若年優位ではないこと、発見数が従来の放射線性甲状腺癌発生数と比較して整合しないこと、などから、放射線被ばくとの関連が否定的と考えられている。加えて、私たちの研究グループでは、3種の新規融合癌遺伝子を同定し、チェルノブイリ原発事故時の遺伝子変異と福島事故のそれとが異なることを示した1)。その傍ら、長崎大学が復興に向けて提携を結んだ福島県川内村で水質調査を行い、同住民の飲用水と甲状腺異常との因果関係は考えにくいことを示してきた2)

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