執筆している今現在、栗原勇一郎被告の公判の真っ最中です。報道に基づくと、勇一郎被告は「心愛(みあ)ちゃんの死の責任は自分にありますが、虐待はしていません」と主張しているようです。この論法に対して、裁判官と裁判員のみなさんがどのような判決を下すのか、関心を持って見ていきたいと思いますが、ここでは、子どもたちを守るべき地域社会が何をすべきだったのかというお話をします。
詳細は、野田市児童虐待死亡事例検証報告書(https://www.city.noda.chiba.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/025/003/houkokusyo.pdf)に譲ることとしますが、一言で言えば、虐待を受けたことを開示できる子どももいれば、開示できない子どももいて、開示しなくても守らなければいけないけれど、開示してくれた子どもには、守るだけでなく、開示してくれた思いに私たち大人は報いなければいけない、言い換えれば、子どもの期待を裏切ってはいけないということです。
心愛ちゃんは2017年11月6日、小学校が実施したいじめのアンケートに「お父さんにぼう力を受けています。夜中に起こされたり、起きているときにけられたりたたかれたりされています。先生、どうにかできませんか。」と書きました。翌朝、アンケートに書いたことについて担任の先生から問われた際、「口をふさがれて床に押し付けられたことがあって、そのとき、お父さんに『なかなか息が止まらないな』と言われて、私は『自分のからだがどうにかなる』と思いました」とお話ししました。心愛ちゃんは父親に命を奪われる危険性を感知していたのです。
だから、千葉県柏児童相談所も一時保護を解除する時、自宅ではなく、父方祖父母宅に心愛ちゃんを帰しました。ところが、柏児童相談所は、早くも2018年2月28日に「心愛ちゃんを実父母宅に戻す」ことを認めてしまいました。この時は一応、再度の一時保護も検討されたのですが、「父方祖母の体調不良」と「虐待が再発していないから」という理由で、心愛ちゃんは実父母宅に帰されたのです。「心愛ちゃんを父親と二人きりでは会わせない」という条件で祖父母宅に帰したわけですから、虐待が再発しないのは当たり前で、なぜ、それが家庭復帰の根拠になり得るのか意味不明です。
父の元に帰された時の心愛ちゃんの絶望感はいかばかりだったでしょう? こうやって、子どもたちを守るべき大人は、子どもの信頼を裏切っているのです。そのような大人にならないために、私たちが何をすべきか、この連載を通じて考えていただければ、命を奪われた子どもたちに少しは報いることができるかもしれません。
山田不二子(認定NPO法人チャイルドファーストジャパン理事長)[失われたいくつもの命から学ぶ②]