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【識者の眼】「新型コロナが糖尿病治療にもたらす『行動変容』」細井雅之

No.5012 (2020年05月16日発行) P.63

細井雅之 (大阪市立総合医療センター糖尿病内分泌センター糖尿病内科部長)

登録日: 2020-05-08

最終更新日: 2020-05-08

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多くの実地医家の先生が感じておられると思われる、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による糖尿病患者の行動変化」について、報告したい。2020年4月7日に7つの都府県に、そして4月16日に全国に「緊急事態宣言」が発出された。政府は、国民に「行動変容」を要請している。外出の自粛要請である。このことが、糖尿病患者に対して予想通りや、予想外の影響を及ぼしている。以下に具体例を挙げたい。

1. 「一歩も外出しなくなった」。運動量が減ってHbA1C上昇。おおよそ0.5%の上昇がみられる。

2. 「家にいるので、間食が増えた。1日中食べている」。HbA1C上昇。

3. 「出勤がなくなり、出張もなくなった」。外食もなくなり、おかげで血糖コントロールが良くなった。HbA1C0.5%低下。

4. 「新型コロナに感染したくない。血糖改善するなら、今まで使っていたインスリンを変更したい」(今まで、10年以上もインスリン変更を拒否していたHbA1C10.2%の2型糖尿病症例)。

5. 「院内感染が心配、採血も受けたくない」「腹部エコーやCTも受けたくない」「薬だけもらってすぐに帰りたい」と、予約センターに電話が毎日。

6. どこから手に入れたのかN95マスクをつけ、目にはゴーグル、両手はビニール手袋。座る椅子は手持ちのアルコール綿でふき取る。といった、潔癖症の糖尿病患者。これは、逆紹介のチャンスだと思い、かかりつけ医を勧めるも、「どこも心配だ。薬だけだしてくれ。また3カ月後に来る」と、逆紹介失敗。

7.  「仕事がなくなり、医療費も払いにくい、薬は最小限にしてほしい。3カ月分も払えない」。感染が心配でも毎月薬を取りに来る。

当日に外来予約をキャンセルしたり受診しない方が増えた()。約10人に1人が来ない。事前に予約変更しているケースはもっといると思われる。全員が、かかりつけ医を持っている地域連携患者ならいいのだが、必ずしもそうではない。治療中断が心配。こんな時こそ、かかりつけ医がありがたい。診療所なら遭遇する人の数も少ない。かかりつけ医のメリットを大いに感じてほしい。

しかし、政府が「行動変容」という用語を使うことに、何か違和感を覚える。「行動変容」とは、「健康維持、増進のために行動、ライフスタイルを望ましいものに改善すること」と定義され、禁煙や、運動療法、食事療法などの生活習慣病の分野で使われていた用語である。人が行動を変える時には「行動変容ステージ」を通ると教わってきた。すなわち「無関心期」(6カ月以内に行動を変えようと思っていない)→「関心期」(6カ月以内に行動を変えようと思っている)→「準備期」(1カ月以内に行動を変えようと思っている)→「実行期」(行動を変えて6カ月以内)→「維持期」(行動を変えて6カ月以上)の5つのステージを通るという「行動変容ステージモデル」である。生活習慣病の分野では6カ月を単位にとらえていたのが、COVID-19ではそんな余裕はない。はたしてどれだけの方が「維持期」に達しているのかと思う。行政が「行動変容」というのは、実際には「行動規制」であることを「行動変容」という言葉に置き換えているだけ、といった気がしてならない。

それにしても、COVID-19の説得力は偉大である。10年以上変えようとしなかった治療を「インスリンの種類を変えてみる」といった「行動変容」まで起こしてくれた。私の説得力、説明力など比ではない。

細井雅之(大阪市立総合医療センター糖尿病内分泌センター糖尿病内科部長)[病診連携④]

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