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【識者の眼】「後方循環脳梗塞におけるアルテプラーゼ静注療法の新たな可能性:発症4.5〜24時間後の治療効果」薬師寺泰匡

薬師寺泰匡 (薬師寺慈恵病院院長)

登録日: 2025-06-05

最終更新日: 2025-06-03

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急性虚血性脳卒中における静脈内血栓溶解療法は、発症から4.5時間以内の前方循環領域での有効性が確立されている。大血管の閉塞がある場合には、血管内治療も考慮され、発症からさらに時間が経過していても適応となる場合がある。主幹動脈の閉塞が疑われる場合、救急搬送時点で血管内治療が可能な医療機関を選定している地域が多いだろう。一方、後方循環領域の脳梗塞において、発症から4.5時間を超えた場合の血栓溶解療法の有効性については、これまで明確なエビデンスが不足していた。2025年4月、New England Journal of Medicineに掲載されたEXPECTS試験は、この課題に対する新たな知見を提供している1)

EXPECTS試験は、中国の30箇所の脳卒中センターで実施された多施設共同の無作為化比較試験(RCT)である。発症から4.5〜24時間以内の後方循環脳梗塞患者で、CTで広範な低吸収域を認めず、血管内治療の予定がない患者が対象となった。アルテプラーゼ(0.9 mg/kg、最大90mg)を投与する群(117例)と、標準的な内科的治療を行う群(117例)に無作為に割りつけることで、RCTを行っている。主要評価項目は、90日後のmodified Rankin Scale(mRS)での機能的自立度(mRS 0〜2)とした。

結果は、アルテプラーゼ群では、90日後に機能的自立を達成した患者の割合が89.6%であり、標準治療群の72.6%と比較して有意に高い結果となった(調整リスク比1.16、95%信頼区間1.03〜1.30、P=0.01)。安全性に関しては、36時間以内の症候性頭蓋内出血の発生率は、アルテプラーゼ群で1.7%、標準治療群で0.9%と、差は小さく、死亡率もそれぞれ5.2%と8.5%であり、アルテプラーゼ群でやや低い傾向がみられている。

後方循環脳梗塞においても、発症から24時間以内であればアルテプラーゼ静注療法が有効である可能性を示唆しており、今後の治療方針を変えるかもしれない。後方循環脳梗塞は、症状が非特異的であることや、画像診断の難しさから、診断や治療の遅れが生じやすいのが現状である。小梗塞はMRIでも初期に変化を指摘するのが難しい場合もある。後方循環系の、血管内治療の適応にならないような脳梗塞であれば、大きな麻痺が生じることもなく、一般的にはアルテプラーゼの投与が行われない。もし、アルテプラーゼの投与により神経学的予後を改善できるのであれば、できる限り早期にMRIで診断を行い、アルテプラーゼの投与と急性期管理が可能な施設に集約する必要も出てくる。今後、より多くの症例を対象とした研究や、画像診断技術の向上により、後方循環脳梗塞に対する最適な治療戦略が確立されることが期待される。

【文献】

1) Yan S, et al:N Engl J Med. 2025;392(13):1288-96.

薬師寺泰匡(薬師寺慈恵病院院長)[救急医][血栓溶解療法

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