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【識者の眼】「補完代替療法の何が問題なのか?押さえておくべき3つのポイント」大野 智

No.5015 (2020年06月06日発行) P.62

大野 智 (島根大学医学部附属病院臨床研究センター長)

登録日: 2020-05-18

最終更新日: 2020-05-18

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厚生労働省は、統合医療・補完代替療法を西洋医学と対立的に捉えるのではなく適切な形で推進していく立場をとっている。だが、それは統合医療・補完代替療法に問題がないということを意味しているわけではない。本稿では補完代替療法の問題点について整理する。

①健康被害

前々回(No.5008)、補完代替療法領域におけるランダム化比較試験の報告数が増加していることを紹介した。しかし、医学研究全体における割合でみると、まだ報告数は少ない現状がある(PubMedでキーワード検索するとランダム化比較試験66万件のうち補完代替療法の割合は2万2000件で約3%である)。これは裏を返すと、補完代替療法に関する副作用に関する検証も不十分であることにほかならない。事実、健康食品による健康被害は後を絶たない。また補完代替療法の多くは、「自然」「天然素材」「ナチュラル」などと体に優しいといったイメージで販売されていることが多いが、自然・天然であることが安全を保証しているものではない点には注意を要する。

②経済被害

補完代替療法は健康保険の対象外であるため、利用する際の費用は全額自己負担になる。利用の適否を金額で線引きできるものではないが、仮に継続して利用した場合に患者や家族にとって経済的負担を感じるのであれば、初めから「利用しない」という選択肢はあってしかるべきである。また、消費者庁や国民生活センターの報告によると、健康食品や美容製品などにおいて被害件数が最も多いのは、健康被害ではなく、契約トラブルなどといった経済被害であることも知っておいていただきたい。

③機会損失

補完代替療法の中には西洋医学を否定することで優位性を主張しているケースがある。万が一、患者が西洋医学に基づく標準治療を受けず補完代替療法のみを実践した場合、本来であれば標準治療で得られたかもしれない利益に関する機会損失になりかねない。癌患者を対象とした米国の調査において、補完代替療法の利用者は標準治療を拒否する割合が高く、生存率が低いことも報告されている1)。この点は、医療者のみならず患者・家族にも広く周知されるべきと筆者は考える。

【文献】

1)Johnson SB, et al:JAMA Oncol. 2018;4(10):1375-81.

大野 智(島根大学医学部附属病院臨床研究センター長)[統合医療・補完代替療法⑤]

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