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【識者の眼】「外出自粛制限が解除されたが」渡辺晋一

No.5019 (2020年07月04日発行) P.61

渡辺晋一 (帝京大学名誉教授)

登録日: 2020-06-16

最終更新日: 2020-06-16

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外出自粛制限が解除されたが、国民の不安は消えない。なぜならば感染者が潜伏しているからである。首相は日本の感染対策を自画自賛しているが、日本の人口当たりの確定した死亡者数はアジア・オセアニア主要諸国の中で2番目に多い。しかもPCR検査は日本でも海外なみにできるのに、専門家会議はキャパシティの問題にすり替えて、制限している。さらに政府は専門家会議の議事録も作成しないと言っている。一体何を恐れているのであろうか。

経済を再開するためにも、PCR検査で仕事に従事できる人を選別する必要があるのに、これもしない。今回の横浜のクルーズ船でも、世界は日本の医療のお粗末さに気付き、その後は日本の感染対策をmysteryと揶揄している。しかし日本の医療は優れていると信じているマスコミや日本国民は多い。

このように日本の感染症対策はあまりにもお粗末である。過去には「らい予防法」があり、多くのハンセン病患者は隔離収容されていた。しかしこの病気は、免疫が未発達の乳幼児などが、患者と何年も同居しない限り簡単に感染する病気ではないことは分かっていた。また遅くても1960年には、世界ではハンセン病の治療法が確立していた。しかし1996年までらい予防法は廃止されず、日本では患者が隔離され続けられていた。

またHIV感染がある。当初AIDSの原因はわからなかったが、血液を介して伝染することがわかった。そのため血液凝固因子濃縮製剤は、米国では1983年に、加熱処理がなされるようになった。もともとは肝炎対策として行われたが、米国ではHIV対策としても位置付けられ、加熱処理をしない血液凝固因子濃縮製剤は回収された。ところが日本では、加熱処理がされた製剤が承認されたのは2年後の1985年で、さらにHIV感染のリスクのある血液凝固因子濃縮製剤が回収されることはなく、1988年までHIVが混入している製剤が使われ続けられた。

日本の医療を良くするためには厚労省が広く世界の標準治療や対策を調べ、勉強すべきであるが、自主的には何もしない。韓国の厚生省は絶えず世界の医療に目を配り、よいものがあれば、医学専門家に相談し、必要であれば導入する。最近日本でも海外に留学した医師が、世界標準治療の導入を学会に提言しているが、稀である。なぜならば、日本の学会も世界標準治療を知らないことが多く、製薬会社の利益相反によって動くからである。

渡辺晋一(帝京大学名誉教授)[新型コロナウイルス感染症]

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