No.5019 (2020年07月04日発行) P.59
小田倉弘典 (土橋内科医院院長)
登録日: 2020-06-16
最終更新日: 2020-06-16
オンライン診療が急速に広まりつつある。当院でも徐々に開始しているが、言葉で表現しにくい症状を汲み取れないのではないか、との当初の懸念は半分当たり半分杞憂であった。確かに状態が安定している場合、対面診療に比べあっさりと終わることも多い。しかし「なんとなくだるい」「よく眠れない」といったMUS(medically unexplained symptom)に属する訴えがある場合、時に患者の思わぬ反応を経験する。診察室よりも積極的になり、具体的な質問をしたり症状を詳しく描写する傾向を感じるのである。患者の表情もいつもよりリラックスし話しやすそうである。この感じは訪問診療の時に患者から発せられる「日常性」に似ている。
普段私たち医療者が居慣れた診察室は、実は患者にとってはかなり緊張を強いる磁場の強い空間なのだ。この緊張感は、患者として他の医療施設を訪れた時によく経験するあの「アウェイ感」である。診察室では医療者はホーム、患者はアウェイだが、オンライン診療では患者も「ホーム」なのである。精神科医の斎藤環氏はブログ1)「人は人と出会うべきなのか」の中で、対面で話すことを「臨場性」と呼び、それが必要とされる理由として「暴力」「欲望」「関係」の3つを挙げている。ここでの「暴力」は「他者に対する力の行使」全般を指すが、その意味で言えば診察室はある種の暴力性を伴い、患者の日常性を奪い、話したいことが話しにくい「呪縛」を与えてしまう空間かもしれない。
もちろん、身体診察が必要な場合は存在し、患者さんの欲望や関係を深めるための対面診察は依然として重要である。また話しやすさが高じて訴えが多岐にわたり診療が長時間化することもありうる。大切なことは、対面診療だけを至上とせず、またオンライン診療だけにこだわるのでなく、両者を相補的なものとして時々に使い分ける新しいスキルである。対面とオンラインを上手に使い分けるニューノーマルな診療の形が求められている。
【文献】
小田倉弘典(土橋内科医院院長)[オンライン診療]