No.5029 (2020年09月12日発行) P.57
和田耕治 (国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授)
登録日: 2020-08-31
最終更新日: 2020-08-31
今年の4〜6月における日本の国内総生産(GDP)は、前年同期比で27.8%(年率)減少であった。個人消費が前期比8.2%減に落ち込み、外出自粛や営業休止で、レジャーや外食などの支出が抑えられた。世界的な景気後退により海外で自動車などの売れ行きが落ち込んだことで輸出も18.5%減と急落した。
GDPの落ち込みは、「新型コロナウイルスがこの世に出現した」という事象自体が大きな要因と考えている。一時は、中国に経済補償を求める意見もあった。これがなければ現在は、東京パラリンピック2020の真最中であったはずである。
緊急事態宣言や外出自粛など感染拡大を防止する措置は、個人消費ならびに海外からの観光客減少などの影響を引き起こした。しかし、こうした事態においても、巣ごもり消費と呼ばれる新たな需要が生まれ、これまで以上に忙しく、収益が上がった企業もあるようである。
新型コロナによる経済への影響を少しでも減らそうと、追加の介入を行うことで、より経済を回すための議論が行われている。経済刺激策以外に、医療に関連する介入としては、無症状の人への積極的な検査がある。しかし、これがなされたら、これまで以上に経済が回るようになるのであろうか。「世の中の安心感が広まる」という意見もあるようだが、どういう人のどういう不安が解消されて、どういう安心感が広がり、どう経済に良い影響が出るのだろうか。こうした議論では、なぜか成果としての「経済」への効果が曖昧に語られているように感じている。
経済への影響といっても様々なものがある。GDPのようなマクロな視点以外にも、失業率、個人の収入などもある。非正規や外国人労働者など厳しい労働条件の方々のことも忘れてはならない。しばらく、新型コロナに対して感染拡大を防止する介入が必要となるであろう。感染拡大のリスクの高い場となりえる事業者においては、客が減少したり、流行拡大によりまた自粛を求められる可能性がある。中には事業の形を変えることも求められるであろう。この社会状況をチャンスと捉えている企業もあるようである。
経済への影響をできるだけ小さくすることは、既に政府の新型コロナ対策の基本的対処方針に入っている。しかし、どのような経済指標でモニターするのか、もう少し具体的に“見える化”ができないであろうか。ぜひ、経済学の専門家の提言や具体化を期待したい。
和田耕治(国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授)[新型コロナウイルス感染症]