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【識者の眼】「便利な遠隔通訳の注意点」南谷かおり

No.5052 (2021年02月20日発行) P.52

南谷かおり (りんくう総合医療センター国際診療科部長)

登録日: 2021-02-08

最終更新日: 2021-02-08

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コロナ禍で再び緊急事態宣言が発令された。いまや無症状の感染者も多いため、患者と話すのにマスクとフェイスシールドは必須アイテムとなっている。医療通訳者は最前線で通訳するため、感染症対策には気を使っている。当院では、新型コロナ感染症が騒がれだしたころから症状のある患者の通訳は遠隔に切り替えた。

遠隔通訳には映像付きのビデオ通訳と無しの電話通訳がある。米国では遠隔医療通訳サービスが普及しており、ボタンを押せば希望する言語の医療通訳者にすぐにつながる移動式モニターは珍しくない。米国では実に200以上の言語の通訳が存在し、母語による説明は個人の権利と法律で定められているため、病院に英語が話せない患者が現れても現場が慌てることはない。

必要時にすぐ使える遠隔通訳は大変便利だが、通訳者にしてみれば難易度は高い。見える範囲が限られていて、もしくは全く見えないため、どういう状況なのか把握しにくい。以前、遠隔で赤ちゃんの話を通訳していたら、予定日の話になり初めて赤ちゃんとは胎児だと気付いた例があった。ある時は、女性がお父さんと言うのを彼女の父親と訳していたら子供の父親、すなわち夫だったこともあった。また発話者が複数いる場合、誰が何の立場で同席しているのか分からないという問題もある。医師がその場にいる看護師に「それをとってください」と言っても表情や動作が見えないため、通訳者が勘違いしてその指示を患者に伝えてもおかしくない。「とる」も、取る、撮る、摂るなど色々あり、身に付けている物を外してと言ったのか、近くにある物を取ってと言ったのかで対訳は違ってくる。危険なのは通訳者が疑いもせず思い込みで間違って訳すことだ。医療の誤訳は時には重大な結果を引き起こしかねない。そのため医療通訳者は常に緊張感をもって通訳に臨んでいるが、話し手が通訳者に配慮できればより正確度の高い通訳となるであろう。

南谷かおり(りんくう総合医療センター国際診療科部長)[外国人診療]

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