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【識者の眼】「何で総合診療に研究が必要なの?」竹村洋典

No.5056 (2021年03月20日発行) P.57

竹村洋典 (東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科全人的医療開発学講座総合診療医学分野教授)

登録日: 2021-02-08

最終更新日: 2021-02-08

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人類は研究することによって医学を進歩させてきた。研究することは、その分野の医療をさらに発展させるために不可欠である。総合診療は臨床重視で研究は必要ないと思われる人たちがいるかもしれない。しかし、総合診療を対象とする私の教室でも以下の理由で研究活動は盛んである。

▶日頃の臨床で「これに関するエビデンスはあるのか」と思って調べてみると、ないことに気が付く。診断に必要な問診、身体診察、簡単な検査などの感度や特異度など、プライマリ・ケアにおける診断に係るエビデンスがもっと欲しい。また、総合診療の原理原則の必要性を示すエビデンス、多職種連携に係るエビデンスなど、まだまだ総合診療分野に必要なエビデンスを提供する必要がある。総合診療では、診療の守備範囲が広いため、evidence-based medicine(EBM)が重視されるが、そのエビデンス自体を生み出すことに寄与することも重要である。

▶行政を動かすには、エビデンスが必要な時代となった。政策立案には政治的な力が重要かもしれないが、総合診療のような黎明期の診療科は、エビデンスが行政を動かす大きな力になる(evidence-based medical policy)。そのエビデンスは、客観的であるのと同時に、多くの住民の意見を反映し、また日本の医療の実態を反映している。

▶総合診療の教育についても、教育効果・効率が重要であり、エビデンスが求められる(evidence-based medical education)。

研究活動の原動力はその必要性だけではない。無名の人でも、良い研究の力は強く、その結果は世界中に影響することがある。実際、論文が発表されると、世界中から、例えばletter to the editorの形で意見が寄せられ、また、日々の臨床で使用しているUpToDateなどに掲載されたりもする。研究によって、自分が勤務先の御茶ノ水にいるのではなく、地球の上にいることが実感できる。

また、商業誌に掲載された記事は、次の号が出ると消えてしまう。書籍は比較的長く残ると思われるかもしれないが、売れなくなった書籍は節税のため、出版社が破棄してしまう。一方で研究は、たとえばPubMedなどで長い間、それこそ著者が死んでも残り続けるかもしれない。

患者がいれば診療をする、学習者がいれば教育する。しかし、研究はそのようにはいかない。今後、大学の総合診療部門が後進に研究の必要性や醍醐味を認知させ、教員の研究能力、そして研究指導能力を養成していかなくてはならない。

竹村洋典(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科全人的医療開発学講座総合診療医学分野教授)[総合診療]

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